フォーグレンの神官84
「父上、兄上」
鎧を纏い、王室に現れたハーヴィンに王と王太子ハルンは驚きの色を隠せなかった。戦いを否定し、降伏を促していたハーヴィンが戦いに参加するとは思えなかった。
しかし、王室に入ってきたハーヴィンは全身を鎧で固め、二人の前で頭を垂れた。
「私はフォーグレンの第二王子ハーヴィンです。私もフォーグレンのために戦います」
「……そうか!やはりお前も参加してくれるか!」
ハーヴィンの言葉に最初に破顔して喜んだのは兄のハルンだった。ハルンは大人しい弟を弱虫だとなじることが多かったが、弟として可愛くは思っていた。好戦的なハルンと温和なハーヴィンは相対する性格で、幼いころから反発しあいながらも仲の良い兄弟だった。
「父上、ハーヴィンの腕も決して私に劣るものではありません。父上の片腕としてお役に立つはずでしょう」
ハルンがハーヴィンの肩を叩きながら、王にそう語りかける。王は息子達が力を合わせ、戦いに臨むことを誇らしく思い、嬉しそうに頷いた。
☆
「ミル様!あれを!」
フォーグレンの上級神官のカルは空を指差してそう叫んだ。
何百隻もの船が空に浮いていた。ファーグレンの街から離れたところに待機していた火の神官達は空に浮かぶ船隊を見て驚愕の色を隠せなかった。
「皆のもの、落ちつくのだ!我らは勇敢な火の神官である。武器を構え、攻撃に備えろ!」
ミルは数百人ものの火の神官を見つめるとそう命じた。そして、自ら先頭に立ち、『神石』のかけらを槍に変える。それを見て、他の神官達もそれぞれ使いやすい武器に『神石』のかけらを変えていく。
空に浮かぶシュイグレンの船隊は、火の神官の姿を見たためか、少し離れたところに次々と着陸した。兵士達は降り立った船から順々に陸に姿を見せ、整列する。
数百人の火の神官に対し、シュイグレンの兵士は何千にも及んだ。
ミルは最高指揮官である王太子ハルンとも相談し、火の神官をフォーグレンの兵士に先だって、配置した。
火の力と水の力がぶつかり合う戦いは、周りを巻きこむ恐れがあった。フォーグレンの兵士をそれにできるだけ巻き込まないようにするための策であった。
ミルは背中に冷や汗が流れるのがわかった。そして子供と夫の顔が浮かぶ。しかし、頭を左右に振ると、シュイグレンの軍勢に目を向けた。
「火の神官達よ。女の身で、我らを最初に向かい撃つとは大儀である」
威厳のある声がして、ラズナンが姿を見せる。
青いマントが風になびき、銀色の鎧が太陽の光を浴び輝いていた。
まさしく王という出で立ちでミルは目が奪われるのがわかった。
「しかし、残念だな。我の目的は世界統一だ。邪魔するものは女と言え、容赦はせぬ。ヤワン」
「はっつ」
ラズナンの言葉に後ろに控えていたヤワンが前に出る。そして、その横にゲインを始め、水の神官が並んだ。
「……水の神官か。大神官を失い、血迷ったか」
ミルは水の神官達を睨みながらそうつぶやいた。
「血迷う?何を言ってるのですか?水の神官はシュイグレンと共にある。火の神官がそうであるように……」
ヤワンはミルに笑顔を向けながら、青色の『神石』のかけらを剣に変えた。ゲイン達も表情を強張らせながらも、次々と武器を作り出していく。
「デイ、水の女神の力をみせるがよい」
ラズナンが後方に声をかけると、デイが三又の鉾を持って現れた。そしてその背後には人形のように表情が凍りついたセンが控えている。
「?!」
ミルおよび他の火の神官はデイよりもセンの姿を確認し、動揺し始める。
「センか!」
「なんでお前が」
「やはり裏切ったのか!」
次々にそんな声があがり、デイは楽しげな笑い声をあげた。
「火の神官の結束も所詮そんなものだ。どうだ?戦わずに逃げてもいいぞ」
「黙れ。下等め!」
ミルはデイの言葉に吐き捨てるように叫ぶ。すると火の神官達の騒ぎはぴたっと収まった。
「大方、センに薬でも盛ったのだろう。命を惜しむ神官はこのフォーグレンにはいない。センもわかっておるだろう。火の神官の結束は固い。お前など下等に負けるわけがない」
「ふん」
デイは鼻で笑うと三又の鉾を掲げた。すると空が光り、銀色の龍が現れる。一瞬であるが火の神官がどよめく。
「火の神官よ。恐れることはない。私達には火の神がついておる。神が参るまで戦いぬくのだ!」
ターヤの中の火の神は味方になるかわからない。そしていつ目覚めるかわからない。しかし、ミルは火の神官達を指揮する者として嘘をつくしかなかった。
「おお!」
火の神官達はミルの言葉に呼応して、声を上げる。そしていつでも攻撃を放てるように構えを取った。
「火の神官よ!水の女神の力を知るがよい!」
ラズナンがそう声を張り上げると、デイが三又の鉾を振り回す。すると水の龍は火の神官に襲いかかった。




