フォーグレンの神官83
ハーヴィンは何年ぶりかに鎧を纏っていた。
戦いが嫌いなハーヴィンは兄ハルンと違い、鎧を着ようとしなかった。
兄同様、戦いの稽古は義務として行っていた。
しかし、兄とは違い熱心ではなかった。
「ハーヴィン様……」
扉を開け、現れたハーヴィンに警備兵は言葉を失った。
昨日まで戦いを否定していたハーヴィンは、全身を鎧で固め、警備兵の前に立っていた。
「さあ、警備兵よ。父上と兄上の元へ参ろう。私もフォーグレンのために戦うつもりだ」
そう言って歩き出すハーヴィンに警備兵は戸惑いながらも黙って従う。逆らうことはできなかった。昨日までとは違う気迫がハーヴィンから放たれていた。
扉の奥で何かが燃えあがったような気配がした。
「ターヤ!」
カネリは慌てて扉を開け、中に入る。
風が吹き荒れ、カネリは吹き飛ばされないように重心を下にかけ、構えた。しばらくして風が止み、扉がカネリに後ろでぱたんと閉まる。
カネリが顔を上げ、部屋の中心を見ると、そこには深紅の目をしたターヤが立っていた。
「……ターヤなのか?」
カネリがそう問いかけると、ターヤは瞬きをした。するとその目の色が元の青色に戻る。
「…大神官様……。おまたせしました。僕がフォーグレンを守ります」
そう語るターヤは誰かに乗り移られたような気配はまったくなく、静かな様子だった。しかし、数週間前まで無邪気に笑っていたターヤの姿はもうそこにはなかった。
「母上、姉上達はこの騒動に巻き込まれなかったようですね」
王室に戻ったマシラはズウとツゥリからかけらを奪い、投獄した。すると二人に怯えラズナンに一時的に従っていた給仕や兵士達も、すぐに元のようにマシラに忠誠を誓い始めた。シュイグレンの城内は元の静けさを取り戻したような様子だった。
「マオ兄上はどうされているのでしょうか?」
「マオは、今頃こちらに向かっているはずです。私の実家に用事で行ってもらっていたのです。今頃、こちらの様子を知って慌てて戻ってくるはずだわ」
「よかった。無事なのですね」
ティアナは母リエナから一番上の兄マオのことを聞き、安堵のため息を漏らした。マオは兄弟の中で一番優しく、ティアナがもっとも敬愛する兄だった。地下の牢獄でマオの姿が見えず、内心心配していたのだ。
「……でもこれからどうなるのでしょう。ネスは戦いを止めることができるのでしょうか」
「……祈るしかないわ。祈るしか……」
「母上。どうして伯父上はそんな恐ろしいことを考えるのですか?確か私が生まれる前も恐ろしい惨劇があったと……」
「……ティアナ……。あなたに話そうかずっと迷っていたわ。でも話すべきだわね」
「母上?」
ふいにリエナが辛そうに眉を潜めたので、ティアナは心配そうにリエナを見つめた。リエナは自分を見つめるティアナに妹の面影を見て、微笑んだ。
「話すべきだわ。……リリアもそう願ってるはず」
「母上?」
独り言のようにそう言い、リエナは椅子から立ち上がると窓に向かって歩き出した。そしてカーテンを締めると、ティアナに向き直った。
「ティアナ。これからあなたに、あなたの生まれた時のことを話すわね」
カーテンが締められた部屋は真っ暗だった。しかし、夜のような暗さではなく、ティアナは母リエナの顔を見ることができた。リエナは痛みに耐えるような表情をしており、これから話されることがリエナにとって悲しい思い出であることが想像できた。
自分の出生に関わることが悲しいことなのかと胸が痛んだが、ティアナは黙ってリエナの言葉を待った。




