フォーグレンの神官81
コンコンと扉を叩く音がした。
ティアナの姿のアルビーナは眉をひそめたが、無視をした。
この時間に姫君の部屋に入ってくる者など非常識な輩に違いなかった。
扉の鍵はかかっていた。無粋な奴は入って来れないはずだった。
そしてアルビーナはそのまま眠りにつこうと目を閉じた。
「アルビーナ……」
「!?」
自分を呼ぶ声が近くに聞こえ、アルビーナはぎょっとして起き上がる。声の主は天蓋を開け、ベッドに腰をかける。
「ちょっと、あほ王子!何、血迷ってるのよ!」
訪問者はハーヴィンだった。センをあれほど愛しているといいながら、のこのこ自分を抱きに来るハーヴィンをアルビーナは怒鳴りつける。
しかしハーヴィンはその美しい顔をすこし困ったように傾げ、微笑んだ。そしてベッドで体を起こしたアルビーナに近づく。
「このくそ王子!」
アルビーナはティアナの姿のまま、そう叫ぶとハーヴィンに平手打ちを食らわせた。ハーヴィンはバランスを崩し、ベッドから転げ落ちる。
「痛いんだけど、アルビーナ」
床に転げ落ちたハーヴィンがそう言ったのを聞いて、アルビーナは顔をしかめる。そしてその変化が解けた姿をみて、ため息をつく。
「姫様、どうかされたのですか?」
『ミシノ!早く隠れて!』
物音のせいか、部屋の外から侍女のクリサの声がして、アルビーナはミシノにそう言う。間もなくして、扉が開かれ、クリサが姿を現した。
「クリサ、心配しないで。ちょっとベッドから落ちちゃって……」
「それならいいのですが……」
アルビーナの弁解に腑に落ちない感じのクリサだったが、素直に部屋を出て行った。アルビーナは鍵をかけると、ベッドの下に隠れたミシノを呼んだ。
「どういうことか、説明してくれる?」
「ちょっと試したんだよ。アルビーナの気持ちを。だって、最近のアルビーナは少し変わったから」
「……馬鹿ね。ミシノ。あたしはあたし。変わらないわよ」
アルビーナはそう言うとミシノを抱きしめた。
金貸しの奴らの店で働らかされていたアルビーナを助け出したミシノ、どん底の気持ちだったアルビーナの側にずっといてくれたミシノ、アルビーナにとってミシノは誰よりも信じられる、大切な人だった。
「でもそういうあんたも最近変わったわよね。人になつくようになった?」
「失礼だね。ボクは猫じゃないよ」
「……そうね」
アルビーナは苦笑すると変化を解いた。そしてミシノに口づける。ミシノはアルビーナの口づけに答えると、そのままベッドに押し倒した。
「アルビーナ、僕は君が大好きだ。本当は僕以外のものに君に触れてほしくないんだ」
「ミシノ……。ごめん。わかってるわ。もうしないわ」
「本当だね?君を愛してる。誰にも渡したくない」
「わかってるわ」
ミシノの珍しく強い口調にアルビーナはその気持ちの強さを感じた。そして如何に彼に不安を与えていたのかをわかり心の中で詫びた。
「アルビーナ……」
「ミシノ、あたしもあんたを愛してる。だから心配しないでよ」
アルビーナは体を起こし、ミシノを抱きしめた。ミシノはアルビーナの気持ちを感じるとほっとした表情を浮かべる。
「ミシノ……」
アルビーナはそう名を呼ぶと、そっとミシノに口づけた。
甘美な一時を二人は久々に楽しんでいた。戦いが続き二人でこうして過ごすこともなくなっていた。シュイグレンとの戦いが迫っている今、そんな余裕はないはずだった。しかし二人はお互いを癒すため、抱きしめあった。
空の闇が少しだけ明るくなっていた。星はその輝きを失い、明るくなり始めた空に溶け込んでいた。
宮殿の庭に兵士たちの声が響く。
アルビーナ達が甘い時間が過ごす中、宮殿の庭では着々と兵士達が戦いの準備を進めていた。




