フォーグレンの神官77
暗闇だった空が明けていく。
東の空からの強い光に片目を閉じながら、ネスがティアナを連れて城に向かって飛んでいた。
キリカから起きたことを聞いた。
ヤワンが裏切ったという話はミシノから聞いていたが、他の神官も同様にラズナンについているとは信じがたい話だった。
ロセとセンがデイから水の『神石』を奪回するために、兵士に成り済まし城に侵入している。そしてヤワンがその事実をキリカから聞き出し、城に神官を連れて戻った。
ロセとセンの力を信じているが、デイ達に加えヤワンと水の神官、多勢に無勢であった。
「ネス……」
ネスの腕を掴んでいたティアナがそう呼んだ。ネスはティアナを見るたびに十七年前に出産のため死亡したリリアを思い出していた。リリアは子供を宿していた。しかし、共に死亡したと聞いていた。
リリアの子供であるはずがなかった。
「ネス……。私をまず母上、父上のところに連れていってください。お願いします」
ティアナが青ざめた顔でネスにそう懇願した。ネスは一瞬だけ考え、微笑んだ。
「わかりました」
ロセ達に危険が迫っているのがわかっていたが、ネスはティアナやマシラ達を安全な場所に避難させることを優先させることにした。
ロセもセンも上級神官だ。
そう簡単にやられはしないだろう。
明るくなっていく空を飛びながら、ネスはそう楽観視していた。
「ヤワン先輩、ゲイン先輩!?」
目を覚ますと、顔見知りの水の神官達の顔がそこにあり、ロセは驚きを隠せなかった。
ヤワンが裏切ったことは知っていた。他の神官までもが裏切るとは思ってもみなかった。
ロセの驚愕の視線を受け、ゲインや他の神官達は視線を逸らす。しかしヤワンだけはにこやかな笑顔をロセに見せた。
「さて、ロセ。目覚めたばかりで悪いけど、聞きたいことがあるんだ。火の『神石』はどこにある?」
ヤワンは手足を縛られ、床に転がされているロセに視線を合わせるため、腰を降ろす。
「……」
ロセはヤワンを睨みつけ、口を開かなかった。
ラズナンやデイに加担し、大神官のキィラを瀕死に追い込んだヤワンが許せなかった。
「やっぱり話す気はないか。まあ、デイが今頃あの火の神官に聞き出しているからいいか」
「……火の神官……?センさんか!センさんはどこにいる?」
「知りたいか?今頃デイにかわいがられているはずだ。俺が調合した薬はよく効くからな」
「薬?センさんに何をした?」
「……知ってどうする?これからお前は死ぬのというのに」
「ヤワ…」
「ヤワン!」
ロセがヤワンを罵ろうとするよりも先に、ゲインの驚きの声が部屋に響いた。
「俺は仲間を殺す気はない」
ゲインの言葉にロセは胸をなでおろした。それは自分の命が助かるという安堵感ではなく、ゲインがまだ水の神官の一員としてその考えをもっていることにだった。
「ゲイン。悩みの種は摘んでいたほうがいいんだよ。わかるだろう?」
ヤワンはため息をつくと、立ち上がり、ゲインに顔を向けた。
「そんなの。拘束していれば済む話だ。俺は仲間を、ロセを殺す気がないぞ」
ゲインはヤワンに噛みつくようにそう答え、睨みつけた。すると他の神官達も口々に不満を話し始める。ヤワンはげんなりした表情をしながらも神官達の話を聞くために、ロセに背を向けた。
今だ……今しか……
ロセはヤワンの背中を見ながらゆっくりと自由にならない手足を動かす。そして、立ち上がると兎のように跳んで逃げようと試みた。
「甘いな。ロセ、逃がしはしない!」
逃げようとしたロセの気配に気づき、ヤワンは振り返ると『神石』のかけらを取り出す。そして氷の矢を放った。
ロセは体を回転させると、矢を避ける。完全に避け切れなかった矢が足をかする。しかし矢は同時に脚の縄を立ち切った。ロセは自由になった足を動かすと、脱兎のごとく扉から逃げ出した。
「くそっつ!」
ヤワンは悔しそうにそうつぶやくと、その後を追った。




