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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第5章 戦いの幕開け
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フォーグレンの神官76

 センは目を覚ますと、体が動かせないことに気がついた。体が縄で柱にくくりつけられていた。周りを見渡すと自分が倉庫のような部屋にいることがわかった。

 しかし、それは建物の中ではない。柱から振動を感じ、部屋全体が動いているような感じだった。


「ロセ?」


 一緒にいたはずのロセの名前を呼んでみる。しかし、反応はなかった。

 確か首の後ろの付け根を打たれたのを覚えていた。最後に聞こえたあの声はおぞましいあの男のものだった。

 あの男……デイにつかまったのか?

 ロセはどうなったんだ?

 一緒につかまったわけではないのか?

 状況をもっと理解しようと体を動かしてみる。しかし体を柱に縛り付ける縄はきつく、びくともしなかった。薄暗い部屋は窓がなく、自分がどこにいるのか判断ができなかった。

 

 くそっつ。

 

 センが焦りの表情を浮かべて、もがいているとギイっと扉の開く音がした。

 入ってきた男はデイだった。

 

「目覚めたのか」


 楽しげなデイの声がセンに届き、ぞっとするのがわかった。

 男の声を聞くと二十年前の出来事を思い出し、おぞましい気持ちになった。


「今、どこにいるか知りたいか?フォーグレンに向かう船の中だ。もっとも船といっても空を飛んでいるんだがな」


 デイは手にもつ三又の鉾をくるくると回転させながら、センに近づく。


「デイ、どうしてお前はラズナンに加担してるんだ?世界を征服したいのであれば、ラズナンの力などいらぬだろう?」

「さあな、なんだと思う?」


 デイはセンの問いにそう返事をしただけだった。


 デイだけであれば戦いと言えども犠牲が少なくてもすむ。

 そう思い口にした言葉だった。

 デイがラズナンと決別すれば国同士の戦いは避けれたはずだった。このままではシュイグレンとフォーグレンの両方で多大な犠牲が出る恐れがあった。


「それより。女。お前、自分の心配をしたほうがいいと思わないか?俺の体を焼いたお前を俺が生かしておくと思うのか?」

「……」


 デイは三又の鉾先にセンの咽喉元に付きつけながらそう言った。

『神石』のかけらは気を失っている隙に奪われたようだった。自由が効かない今、センには打つ手がなかった。


「どうやって、殺そうか色々考えた。そしていい手を思いついた。殺すよりも生かして苦しめていた方が面白そうだからな」


 デイは鉾を突き付けるのを止めると、懐から小さな瓶を取り出した。


「これが何かわかるか?思考を奪う薬だ。これをお前に与えたら、面白いだろうな。俺の楽しみのためにお前を生かせる。お前の力は素晴らしいからな。フォーグレンの奴らを皆殺しにするのに役立ってもらおう」

「!誰が!」


 センがそう叫んで睨んだが、デイはその顎を砕けるくらい力強く掴んだ。そしてその口を無理やりこじ開ける。 


「さあ、俺の人形になってもらおう」


 デイが小瓶のコルクを歯で抜いたのがわかった。


 嫌だ!


 センが逃げだそうと試みるが、体を柱に縛り付ける縄は固く結ばれたままでゆるまなかった。そしてデイの手はセンの顎を掴んだまま、放さなかった。

 瓶の口が唇に当たる。口を閉じようとしても、デイの手がそれを許さなかった。


 苦い液体が体に流れ込むのがわかった。


 すると体が熱くなり、意識がぼんやりとしていくのがわかった。


 薄れる意識の中、頭に最初に浮かんだのは小さな少女だった。

 背中まである長い黒髪に少女。

 真っ赤な唇に、二重瞼の切れ長の瞳……。


 ああ、あれは自分だ。

 小さい時の、母と一緒にいた時の……。

 

 次に浮かんだのは真っ赤な髪の女性……。

 『セン、何やってるの!』

 アルビーナ、ごめん……。

 

 最後に浮かんだのは、褐色の肌の美しい王子だった。

 『セン……愛してる』


 ハーヴィン殿下?


 それがセンの最後の想いだった。

 想いは全て消えていき、センは何も考えられなくなった。


 真っ白な羽毛がセンに向かって降ってきた。

 それは粉雪の様で美しかった。

 センはただ佇み、降り落ちる羽毛を見ていた。

 白い羽毛は徐々に数を増し、センの姿を隠し覆っていく。


 しかしセンは微動だにしなかった。


 背景の色と羽毛の白色が一体化していく。

そしてセンを覆った羽毛はついに彼女ごと背景に溶け込み、見えなくなった。



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