フォーグレンの神官75
静かな時間が流れている……。
遠くで鳥が鳴く声が聞こえてた。
動物もいるのか……。
僕の中ってどういう意味なんだろう?
穏やかな世界だった。
ターヤはごろんと草の中で寝転がる。
草の匂いが鼻を刺激する。
嫌な匂いじゃなかった。
空を見上げると、白い入道雲が見えた。
僕はどうすればいいのだろう……。
火の神の力を借りて、父を倒すべきなのか……。
ラズナンに会ってみたい気はした。
母親の存在すら今まで忘れていた。
父親の存在など考えたこともなかった。
そして姉さん……。
僕が父さんを、水の女神の力を止めなければ、あの惨劇がフォーグレンで繰り返される。
水の女神の力は、多分火の神の力じゃないと止められない……。
でも僕に出来るのか……。
ターヤの問いに答えるものはいなかった。
頭上に広がる空はターヤの苦悩を知らぬようにどこまでも澄み切った青色をしていた。
「お待たせ。さあ、部屋に帰ってもいいわよ」
窓からひょいっと入ってきたアルビーナはそう言うと、ハーヴィンに軽く触れた。ハーヴィンの姿がティナアから元の姿に戻り、代わりにアルビーナの姿がティアナのものになる。
「ティアナ姫は無事シュイグレンに戻ったのか?」
「ええ、そのはずよ」
「そのはずとは。確かなのか?」
「ネスがついているわ。何かあったとしても、問題ないわ」
アルビーナはそう答えると、天蓋ベッドに腰掛けた。瞬間移動の技は結構体力を消耗するらしく、疲れていた。ハーヴィンと会話するよりも横になって休みたかった。
「そうか…。アルビーナ。君には感謝している。おかげでフォーグレンのために姫が犠牲になることはないだろう」
ハーヴィンは力なく微笑むとアルビーナに背を向けた。そして窓のほうへ歩いていく。
「ハーヴィン」
「……何かな?」
アルビーナに呼び止められると思わず、ハーヴィンは意外に思いながら振り向いた。
「あんたさあ、本当にセンのこと好きなの?」
「当然だ。君には信じてもらえてないみたいだけど」
「当たり前でしょ。ティアナ姫とあんなに親しげな場面みると、信じられるわけないじゃないの」
アルビーナはそう言って天蓋に覆われているベッドの中からハーヴィンを睨みつけた。
ティアナの姿では迫力はないのだが、数時間前に同じような視線を向けられたことを思い出し、ハーヴィンは苦笑する。
「あれは私の本意ではない。君を抱いたのもセンだと思ったからだ」
「あたしも、あんたに抱かれたのはセンへの復讐のためだけよ。別に他意はないわ」
まったくやっぱり頭にくる王子だとアルビーナはぶつぶつ言葉を続けると、寝返りを打った。
「疲れたから休むわ。あんたも帰って早く休んだら?」
「アルビーナ。君はセンと和解したのか?」
「……うるさいわね。あんたには関係ないでしょ。元はと言えばあんたがセンに言い寄るから、あたし達がもめることになったんだから」
アルビーナはぎろりとハーヴィンをもう一度睨みつけると、枕を掴み頭を隠した。そして、再び寝返りを打ち、背中を向ける
「さあ、帰ってちょうだい。邪魔よ」
「そうさせてもらうよ。アルビーナ。ありがとう」
ハーヴィンはその背中に向けて柔らかく微笑むと、再び窓へ足を向けた。アルビーナの様子からセンとアルビーナが和解できたと想像できて、ハーヴィンはほっとしていた。
シュイグレンの戦い、シュイグレンから戻らないセン……。
その身は心配であったが、こうしてアルビーナがフォーグレンにいることは、きっとセンが無事であるからに違いない。
ハーヴィンはそう思うことで自分の不安を打ち消した。
センのことは心配だが、シュイグレンとの戦いが迫っていた。
考えなければならないことは山ほどあった




