フォーグレンの神官73
「……ハーヴィン様は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、大丈夫。変なことしてないかが心配だけど」
アルビーナとティアナは廊下を足早に歩いていた。二人がアルビーナとティアナであることに気づくものはない。二人は侍女の姿に変化して歩いていた。そして急にティアナの姿が見えなくなると怪しまれるので、ハーヴィンをティアナの姿に変化させて、部屋に置いてきていた。
ハーヴィンは始めアルビーナの提案に難色を示したが、最後には仕方なく頷いた。そして大人しくティアナとして部屋に残っている。
アルビーナは男のハーヴィンがいつまでもティアナになりきることは難しいと考え、ティアナをネスの部屋に送った後は、自分が替わるつもりだった。
「シュイグレンがそんな状況になるとは……」
アルビーナの後ろを歩きながら、ティアナはアルビーナとハーヴィンから聞かされたことを受け入れられない様子だった。
「父上や母上達は大丈夫なのでしょうか?」
「うーん、多分大丈夫よ。ラズナンだって、弟達を殺すようなことはしないでしょ」
アルビーナは安心させるようにそう答えたが、自分の言葉に自信はなかった。
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「なんだって?!」
カネリの言葉にネスが憤りの声を上げた。
「ふざけたこと考えるものだな。お前の王様は」
「お前のところの王よりはましだ」
カネリはネスを睨みつけるとそう答える。
「俺は監視などされるつもりはない。シュイグレンに戻り、デイの奴から『神石』を奪い返す。俺の代わりにキィラを変化させておく。そうすれば、お前の王様の満足だろう?」
ネスの物言いにカネリは苛立ちを覚えたが黙って頷いた。
カネリはネスとキィラ、そしてティアナをシュイグレンに瞬間移動させるつもりだった。しかしキィラの意識が回復しない今、キィラはフォーグレンで休養させていたほうがよいようだった。
「ネス。シュイグレンの姫君も連れていけ。もし戦争が避けられなかった場合、犠牲なる可能性が高い」
「……そうだろうな。そうしたほうがいいな。ロセ……ミシノ、お前はここに残れ。宮殿から水の神官が消えたとなれば、ややこしくなるからな」
ネスがそう言ったところで、扉が勢いよく開き、侍女が二人は入ってきた。
「待たせたわね」
侍女の一人は扉を締めると、エプロンから青い『神石』のかけらを取り出す。すると侍女たちの姿はアルビーナとティアナの姿に戻った。
「アルビーナ!無事でよかった~」
ミシノはアルビーナに駆け寄るとぎゅっと抱きしめる。しかしアルビーナは顔をしかめるとミシノの体を押しやった。
「ミシノ、ロセの姿で止めてよね」
「あ、そうだった」
ミシノは笑うとロセの姿から変化を解く。そしてアルビーナをもう一度抱きしめた。
「……ミシノ、それくらいでいいか?話をすすめるぞ」
ネスにそう言われ、ミシノは残念そうに肩をすくめると、アルビーナから離れた。
「さて姫様」
ネスは咳払いをすると、茫然とするティアナを見つめた。
「姫様。アルビーナから事情は聞いてると思いますが、フォーグレンにこれ以上留まるのは危険です。私と一緒にシュイグレンで戻ってもらいます。わかりますね?」
ネスの鋭い眼光がティアナに向けられていた。有無を言わせぬ視線だった。
ティアナの脳裏にハーヴィンの姿よぎる。しかし、ここに留まるわけにいかなかった。最後に握ってもらった手の温もりをティアナは確かめるように両手を握りしめる。
ティアナは顔を上げると、頷いた。
「わかりました。シュイグレンに戻りましょう」




