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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第5章 戦いの幕開け
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フォーグレンの神官69

 キィラをベッドに寝かせ、ネスはミシノが持ってきた薬草を机の上に広げた。キィラの病状からカラキノキノコの毒を盛られたとネスは判断した。カラキノキノコはシュイグレンでは入手不可能のキノコで、通常目にすることがない。しかし、貿易をしているヤワンの家であれば簡単に入手できるものであった。


「ミシノ、カラキナバナを取ってくれ」


 ロセの姿のミシノはネスに言われるがまま、素直に机の上の真っ赤な花を掴み、渡す。するとネスがにやっと嫌味な顔をする。


「やっぱりミシノか」

「……いやですねぇ。僕はロセですよ」


 ミシノはにっこりと笑ってごまかそうとした。しかしネスはその目を細めてじっとミシノを見つめる。


「僕か……ロセの奴が間違ってもそんなことを言うわけがない。しかも奴は薬草に関してはまったくのど素人だ。カラキナバナのことがわかるのはお前、そしてヤワンの二人だけだった。ヤワンの奴も間違っても、僕とは言わないからな。ミシノ、なんでお前がここにいる?大方あのセンも偽物だろう?アルビーナ……か?」

「……やっぱりあなたには敵わないな。そうですよ。僕はミシノです」


 ミシノは懐から青い『神石』のかけらを取り出すと目を閉じた。するとロセの姿がミシノに戻る。


「お前達、何の魂胆で二人に成りすましてるかわからんが、悪いことは考えていないようだな。とりあえずキィラの治療が先だ。その後にゆっくりと話を聞かせてもらおう。いいな」

「……わかりました」


 ミシノは肩をすくめてみせたが、大人しくネスの指示に従い、キィラの治療を手伝うことにした。


⭐︎


「そんな……」


 王室に呼ばれ、王から語られた言葉にハーヴィンは言葉を失った。

 シュイグレンとフォーグレンが戦争をする……。

 そんな事実がハーヴィンには信じられなかった。


「シュイグレンは、十七年前に死亡したはずのラズナン殿に支配されたらしい。十七年前にシュイグレンでは色々あったらしいからな。今の、先の王マシラ殿の統治に不満の声を漏らすものが多いようだ。その不満が他国に向くのも仕方ないと思われる。ハーヴィン、お前はこれからどうすればいいと思う?」

「迎え撃つ準備が必要です。水の『神石』の力は強大です。街の者を退避させ、街に入る前に叩く必要があると思われます」

「しかし、火の『神石』はまだ戻ってきていないのだろう?水の『神石』にどうやって対抗するのだ?」

「それは……」


 ハーヴィンは王の問いに言葉を濁した。

 カネリは火の神を宿したターヤが戻ってきていることを王に話していなかった。カネリがそのことを王に秘密にしていることはアルビーナにとって不可思議だった。しかし事情が分からぬ今、口を噤んでいたほうがよいと思いアルビーナは黙って話を聞いていた。


「ティアナ姫だ。ハーヴィン。わしらにはシュイグレンの姫君がいる。ラズナン殿の姪にあたる。弟君の娘だ、見殺しにするわけがない」

「そ、それは……、どのような意味ですか?」


 王の言葉にハーヴィンは目を見開いた。嫌な汗が背中に流れるのがわかった。


「ハーヴィン。お前、相変わらず鈍い奴だな。ティアナ姫を盾に戦うのだ。そうすれば火の『神石』がない私達にも勝機があるだろう」


 兄で王太子ハルンが不敵に笑いそう言葉を続ける。


「そんな、卑怯な……!私は反対です!」

「ではどうするのだ?『神石』のかけらがないフォーグレンがどうやってシュイグレンと戦うのだ」

「では、戦わなければいいのです。黙って白旗を上げれば、無駄な戦いは避けられるでしょう」

「ハーヴィン!お前は」


 ハルンは王族の言葉とは思えないハーヴィンの言葉にかっとなって叫ぶ。


「ハルン!落ちつくのだ。ハーヴィンの気持ちも理解できよう。しかし、ハーヴィン。フォーグレンは南の大国だ。北のシュイグレンに統合されるわけにはいかないのだ。わかっておるな?」

「父上!」


 ハーヴィンは抗議の声を上げる。


「警備兵、ハーヴィンを部屋まで連れていけ。部屋の外に出ないように監視するのだ」


 王がそう命じると部屋の壁際に待機していた警備兵二人が動いた。ハーヴィンの両脇に立ち、その腕を掴む。


「放すのだ!」

「連れていけ」


 荒がるハーヴィンを警備兵はその力で押さえ、王室から連れ出す。


「カネリ。お前もわかっておるな。水の神官を監視するのだ。わかったな」


 王の言葉にカネリは唇を噛む。しかし異議を申し立てることはしなかった。


「さあ、戦いの準備を行うのだ。ハルン、こちらへ」


 王は王座に再び腰掛けると、ハルンを側に呼びよせ、軍の編成や民の避難方法について話をし始めた。王がカネリ達に再び視線を向けることなく、カネリ達は王室を後にするしかなかった。

 

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