フォーグレンの神官67
日が完全に沈み、フォーグレンの宮殿に闇が訪れていた。
アルビーナは額に飾られている青の『神石』のかけらに触れると、ランプの灯心に火を灯した。
部屋に柔らかな光が広がる。
カネリは椅子に腰かけ、センの姿のアルビーナをじっと見た後、ゆっくりと口を開いた。
「お前はセンじゃないな」
「……やっぱりあんたにはわかるのね。大神官」
アルビーナは嫌味な笑みを浮かべると変化を解いた。
カネリ達はふいに現れたアルビーナ達を見て、瞬間移動でフォーグレンに来たことを悟った。そしてネスはミシノが連れているキィラの様子を見ると、ミシノに命じ、すぐに自室に連れて帰り、治療を始めた。カネリは火の神の気配をその体に宿す、ターヤを見て顔色を変えたが、ベッドを『神石』のかけらの力で作るとそこに寝かせた。
「戦いにきたわけじゃないようだな。なぜ、キィラとターヤをここに連れてきたのだ?」
カネリはターヤが静かに眠るベッドの前の椅子に腰かけ、その鋭い視線をアルビーナに向けた。数日前にデイに加担したアルビーナに火の『神石』を奪われた。油断はできないと感じていた。
「ふん。センの代わりに来たのよ。瞬間移動の術って奴を使うと、本人は飛べないらしいから。水の神殿で命を救われたから、少し手伝ってやってるの。本当はあんたの顔なんて見たくないけど、そうも言ってられないしね」
アルビーナは鼻で笑った後、壁に寄りかかり腕を組む。
「デイが水の大神官に薬を盛って、水の『神石』を奪ったわ。そして、火の神はなぜか知らないけど、石じゃなくてターヤに宿ってるみたいなのよ。その上、シュイグレンはラズナンって奴が支配しちゃって、フォーグレンに戦争を仕掛けるつもりよ」
「な、なに?!」
カネリは顔色をかえた。
ラズナン……自分が火の神を使って殺したはずの王太子だった。
生きているなんて信じられなかった。
『カネリ。あなたをわたしは絶対に許さないわ。絶対に』
タリザの言葉がよみがえる。
「あんた、なんか知ってるでしょ?なんで、神官になったばかりのターヤが『神石』を扱えるのよ。しかも、あたしが使ったときと様子が違ってたわ。神が人間に宿るなんて考えられないわ」
アルビーナの言葉にカネリは何も答えなかった。ただ苦しげに眉をひそめるだけだった。その様子にアルビーナは驚かずにいられなかった。冷静沈着なカネリがこうも動揺してる様子をアルビーナは初めて見た。
「まあ、話たくなきゃいいけど。でも火の神の力は必要よ。シュイグレンが攻めてくるわ。火の神の力がないと抵抗できないと思うけど?」
「……そうだな」
カネリは息を吐くと、椅子から立ち上がった。体に痛みが走り、少しよろめいたが背筋をしゃんと伸ばすと、机の上のティアラを手に取った。そして頭につける。額の『神石』のかけらが煌めき、カネリの服が大神官の正装に変化した。
「アルビーナ……。力を貸してもらうぞ。まずは王にシュイグレンが攻めて来ることを伝えるのだ。それからターヤのことを考える」
「待って!ターヤは大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫だ。火の神がターヤを傷つけることはない」
「……理由を教えてくれるつもりはないようね?」
「王に謁見した後に、教えてやろう。長い話だからな」
「ふん。わかったわ。でもその前に一言言わせてよ」
「なんだ?」
「あたしはあんたが大嫌いなの。二年前の選考会の時にあたしを見棄てたあんたが。落ちついたらセン同様、覚悟しなさいよね」
「……アルビーナ。二年前のことはわしの落ち度だ。センは何もしておらず。恨むならわしを恨むのだ」
「ふん」
アルビーナは鼻を鳴らすだけでそれ以上何も言わなかった。しかし、カネリはすでにアルビーナがセンのことを許していることをわかっていた。
「さあ、アルビーナ。センの姿に戻るのだ。その優秀な力、貸してもらうぞ」
「……よく言うわね」
アルビーナは苦笑すると、目を閉じた。手の平の青い『神石』のかけらが光る。そしてアルビーナの姿はセンの姿に変化した。
「さあ、行きましょうか。大神官様」




