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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第1章 火の『神石』
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フォーグレンの神官4

「こっちです。ターヤ」


 フードを深く被り、センとターヤは足早に街の裏道を歩いていた。

 センの姿をしたアルビーナとミシノは宮殿から力を使って跳んで逃げた。街にいるはずはないのだが、兵士たちは念のためと街を捜索していた。

 セン達二人は街中に散らばる兵士達に見つからないように裏道を通っている。


「まずは街から出ましょう。私の姿に化けた神使人しんしとの行方はそれからです」


 センはターヤにそう言うと、裏道を再び歩き始めた。街を出るまで力を使う気がない。使えば神殿に迷惑がかかる可能性があるからだ。

 自分の姿に化けた者が王子を誘拐したというだけで、神殿に嫌疑がすでにかかっているはずだった。自分のせいでセンはこれ以上騒ぎを起こしたくなかった。

 センはそっと自分の後を忍び足で歩く、ターヤを見つめた。ターヤは嬉しそうににセンに可愛らしい笑顔を向ける。


 まだ子供のターヤ。本当はこんなことに巻き込みたくなかった。

 しかし大神官は神殿の裏口からセンを逃す際、ターヤも連れて行くように指示した。ターヤが一緒に行きたいとごねたせいもあるのだが、センは大神官が他の理由も考え、一緒に行動するように促したような気がしていた。


「!?」


 ふいに体を誰かに捕まれた。それは見覚えのある兵士だった。センとターヤはぎょっとして逃げようとしたが、兵士はにこりと笑うと二人を強引に近くの家に押しこんだ。そして片目をつぶってウィンクすると扉を閉めた。


「出して、出してください!」


 ターヤが扉を叩いて抗議する。センは力を使おうと額の赤い石に手を触れた。しかし、ふと誰かが家の外の兵士に近づくのがわかり、力の使うのをやめる。それからターヤの口を手で封じ、その動きを止めた。

 そしてターヤに目配せをすると、窓からそっと外の様子を窺う。


「ロセ!不審なものはいたか?」

「いや。猫は見たけど。この一帯にはいないみたいだぜ」

「猫か……」


 ロセの言葉に隊長のマカは皮肉な笑みを浮かべた。


「俺は東のほうをもう一度探してみる。お前はこの辺で誰か不審なものが紛れ込まないか見張っておけ」

「はいはい。了解しました」


 マカのえらそうな態度に辟易しながらも、ロセはそう答えた。マカはふんと鼻を鳴らすと、来た道を戻り始める。

 マカはよそ者のロセを嫌っていた。ファーグレン出身じゃないロセが兵士になり、隊長の自分と対等に会話するのが許せなかった。しかしその腕は一流で、王子に一目置かれているのを知っていた。したがって表立って何かすることはなかったが、隊長という立場を利用してロセに高圧的に当たり、憂さ晴らしをしていた。


「悪かったな。急に」


 ロセはそう言いながら家に入ってきた。


「あなたは確かロセでしたね」


 センはロセを見つめるとそう言った。センはハーヴィンがよくこの男と話しているのを見たことがあった。軽薄そうな男でセンは苦手にしていたが、真面目なハーヴィンとは気が合うようだった。


「なぜ私たちを助けたんですか?あなたなら私の顔がわかるでしょうに」

「俺はあんたが犯人だとは思っていない。この裏には神使人しんしとが関わっている」


 ロセの言葉にセンとターヤは顔を見合わせた。神使人しんしとの存在を知っているのは神殿に関わるものだけだった。一介の兵士のロセが知っているのは奇妙だった。

 ロセは二人の訝しげな視線を受けて、微笑むと懐から青い石を取り出した。それは水の神殿の神官がもっているはずの『神石』のかけらだった。


「俺は水の神殿の神官、ロセ。シュイグレンから消えた神使人しんしとを追って、フォーグレンに来た。内部で監視するために兵士になりすましていたんだ」

「あなたが神官……」


 センはそうつぶやき、ターヤは軽薄そうな男ロセをじっと見つめた。

そしてターヤは彼が今朝市場で会った青年である事を思い出す。けれども厳格である神官とは思えず眉をひそめた。


「こほん」


 センとターヤの疑惑の視線を感じロセは咳払いをした。そして青い石に触れ、手を宙にかざす。すると手の中に水の入ったグラスが現われた。


「はい、どうぞ」


 ロセはグラスをターヤに渡して微笑んだ。ターヤは初めてみる水の力に愕然としながら、黙ってグラスを受け取る。センはただロセを凝視していた。


「センさん、お嬢さん。これで俺が神官であることが証明されただろ?今度は俺の質問に答えてもらおう。あんたに化けた神使人しんしとはアルビーナだ。行き先にこころあたりはあるか?」


 先ほどの冗談交じりの様子をがらりと変え、ロセはセンを真剣に見つめて尋ねた。

 センは懐かしい友の名前を聞かされ、顔色を変える。


 二年前に神殿を出て行き、戻ってこないアルビーナ。

 神使人しんしとになっていることなど、センが知らないことだった。



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