フォーグレンの神官66
「タリザの娘よ」
真っ暗な空間にターヤはいた。
知りたくない事実だった。
しかし知らなければならない事実だった。
「それから母さんはどうなったの?」
ターヤはぽつりとそう聞いた。
「タリザはそれから7年後死亡した。覚えてないか?センに拾われた時だ」
火の神がそう答えると、急に周りの様相が変化する。
真っ暗な空間に吹雪が吹いていた。そして眼下で狼に襲われ、逃げる親子が見えた。母親は子供を逃がして、狼に一人で立ち向かった。
「………どうして。あの時、僕は死ななかったんだろう」
センに拾われる以前の記憶も思い出し、ターヤは愕然とした。
自分は生まれてからずっと、母と共に旅をしていた。
その生活が苦しいと思ったことはなかった。
母と共に楽しく暮らしていた。
あの冬の日、母は僕を助けるために死んだ。
僕はなぜ今生きてるんだろう。
あの時、母と一緒に死ぬべきじゃなかったのだろうか……。
罪を背負った子供。
生まれて来るべきじゃなかった子供。
でも母は僕を生きがいにしていた。
母の優しさを覚えている。
僕の髪を愛しげに撫でる母の目に映ったのは父であったに違いない。
父……。
ラズナン……。
「火の神……リリア様はそれからどうなったの」
「リリアは死んだ。同じ日にな」
ターヤはそれを聞き、胸を掴んだ。何かがえぐれたような痛みがした。
母と自分が殺したようなものだった。
確かお腹に子供がいたはずだった。
「赤ちゃんは、赤ちゃんはどうなったの?」
「生きてる。赤子はマシラの娘として暮らしている。お前も見たことがあるだろう。第三王女のティアナがそうだ」
ティアナ……。
あの人か……。
遠くからみたことがあった。
美しい姫君。
あれが僕の姉……。
「タリザの娘よ。お前の父親がシュイグレンに戻り、フォーグレンに戦争を仕掛けようとしている。お前はどうするのだ?ワタシを解放すると約束すれば、力を貸してやろう。シュイグレンは水の女神の力を持っている。ワタシが力を貸さねば、フォーグレンは終わりだぞ」
火の神の言葉に先ほど見た、水の神殿の惨状が思い浮かぶ。多くの人が殺される。
「タリザの娘……。どうするのだ?」
ターヤは火の神の問いに答えられなかった。
知らされた父親の存在、姉の存在。
しかし、誰にも悟られてはいけない自分の存在。
そして、戦い。
水の女神に心を奪われた父親のラズナン……。
「まあ、よく考えるのだな。お前の中はなかなか面白い。石よりも快適だ。ゆっくり考えるがいい」
答えを出せないターヤに火の神はそう言うと、再び龍の姿になった。すると周りの風景が最初の草原のものに変化した。龍は風を巻き起こすと空に飛び上がる。
ロセさん、
セン様……。
僕は……。
青い空に真っ白な雲がゆっくりと流れている。
ターヤは青い空の下、どうするか答えが出せず、ただ空を見上げていた。




