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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第4章 2人の娘
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フォーグレンの神官61

 弾力のある体だった。

 助けを求めるように背中を抱きしめられた。

 いつもと違う憂いを帯びた視線、痛みを堪えるように閉じられた唇、

 上気する頬、すべてが愛しかった。


 その体、すべてを知りたかった。



「おい、王太子。起きろ」


 そう声がして、ラズナンは目を覚ました。そして、仮面の男が自分を覗きこんでいるのを見て、枕元の小剣に手を伸ばす。


「おっと動くな。刺さるぞ」

「?!」


 首に微かに痛みが走った。見ると剣先がぴたっと首に当たっているのがわかった。先ほど動いたせいか、皮がすこし切れたようだった。


「何用だ?」


 仮面の男がここにいる理由がわからなかった。

 確かタリザと共にいたはずだった。

 しかし、側にタリザの姿は見えず、不躾な男が剣を突き付けている。

 ラズナンは状況が見えず、デイを睨みつけた。


「何用か?なんだと思う?俺はお前と取引をするためにここに来た」

「取引?そのようなものお前のような輩とするわけがなかろう」


 自分の命を狙う者などと、取引などするわけがなかった。


「そうか?王太子。これを見てみろ」


 デイは剣をラズナンに突き付けたまま、懐から丸い小さな金色の輪を取り出す。そして ラズナンに見えるようにベッドに放った。

 ラズナンはじっとそれを見つめた後、顔色を変えた。


「わかったようだな。これはあの女の耳飾りだ。覚えているか?お前が気を失う前、何があったか?」


 記憶が混濁していた。

 そして、脳裏にタリザの叫び声が蘇る。

 

 そうだ。

 われはこの男の術にかかり、氷に閉じ込められた。


「思い出したか?俺はお前を助けた。女の代わりにな。女は預かってる」

「?!」

「返してほしいか?あの女、美味そうな女だよな。王太子」

「……くっつ。何が望みだ?」


 ラズナンは拳を握りしめ、唇を噛んだ。

 男の取引に応じるしかないのが悔しかった。

 タリザをむざむざとさらわれた自分がふがいなかった。


「水の『神石』だ。王太子なら、簡単に神殿に、そして大神官と面談ができるだろう。『神石』は大神官の住む本殿の女神像の手の平にある」

「……水の『神石』をどうするつもりだ?」

「もちろん、俺のために使うのさ。まあ、聞いたところでお前には選択肢はないと思うがな」


 ラズナンは眉間に皺を寄せた。そして天井に視線をさまよわせる。『神石』を渡すことなどできなかった。しかし、取引に応じない場合、タリザに身の危険が及ぶのは確かだった。


「……わかった。取引に応じよう」

「それでいい。水の『神石』を入手したら俺を呼べ。俺はお前の側にいる。他の者に漏らすようなことがあったら、女を殺す。わかったな」

「……わかっておる」


 デイはラズナンの返事を聞くと、剣を収めた。そして窓を開け空に消える。

 開け放たれた空から赤い光が入ってくる。空は血の色のように真っ赤に染まっていた。


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