フォーグレンの神官59
デイはタリザの背中を見送ると、笑い出したい気分に襲われた。
必死の形相のタリザを見て、思いついた計画だった。
しかも、タリザが不在で、意識のないラズナンが部屋に残る。
火の神官に襲われたという話を作り上げれば、誰もが信じることだった。
二日以内にタリザが戻らなければ、ラズナンが死ぬだけの話だった。
元からラズナンを殺す依頼を受けていた。
タリザが戻らなければ、金だけを受け取ることになる。
もしタリザが約束どおり、火の『神石』を引き渡せば、デイは力を得ることになる。
どっちに転んでもデイにとっては美味しい話だった。
王太子ラズナンが火の神官に襲われ意識不明という話は水の神殿にすぐに伝わった。
カネリは怒りで顔を真っ赤にし、城に行こうとするのをネスとキィラが引きとめた。
王太子の病状は宮廷医師が手に負えないという話であったので、薬草の第一人者であるネスが城に向かった。
「どうでしょうか?」
ラズナンの病状を聞きつけ、実家で出産準備をしていたリリアが戻ってきていた。
「プラサの草とサリサリの花を混ぜた毒が盛られています」
心配げなリリアにネスがそう答えた。
「治療は可能ですか?」
「ええ、心配御無用です」
ネスは笑顔で答えると、治療に必要な薬草を側にいた給仕に伝え始めた。
伝えながら、ネスは別のことを考えていた。
この毒はデイが好んで使っていたものだった。
昨日ラズナンを襲ったデイ、そしてこの毒。
デイが1人で動いているようには思えなかった。
そして消えたタリザ……。
「リリア様、私が責任を持って治療いたします。あなたはお休みください。お腹のお子に大事があると大変です」
「……そうですね。私は隣の部屋で休むことにします。ラズナン様が目を御覚ましになったら呼んでください」
リリアは疲労のためが青ざめた顔で無理に笑顔を作ると、侍女に支えられ部屋を出て行った。
ネスはリリアの背中を見送りながら、タリザとラズナンのことを思った。
ラズナンがタリザに想いを寄せていることは昨日の様子でわかっていた。
タリザもそうであることが想像できた。
ならばなぜ、タリザは消えたんだ?
ネスはタリザの行方、ラズナンの命を狙う真犯人のことを知るために、早急にデイを捕まえる必要があることを感じていた。
「タリザ、待つのだ!」
大神官の声を無視して、タリザは火の『神石』を杖に変えると、力を使った。それは大神官の目の前に炎の壁と作る。
「大神官様、許して下さいとは言いません。私には他に道がないのです。火の神よ!」
タリザの声に、火の神が答える。そして火の龍はタリザを乗せ、神殿を抜け、空に登った。
日が沈む前に火の神殿に到着すると、タリザはまっすぐ本殿に入った。そして大神官が油断している隙に『神石』を奪った。『神石』の創造者の子孫であるタリザが『神石』を奪うことなど考えもしなかったことだった。
大神官や神官がタリザを止めようと力を使ったが、『神石』を持ったタリザを止めることは誰にもできなかった。