フォーグレンの神官54
ラズナンが言った通り、ラズナンは街のことをよくわかっているようだった。しかし、ラズナンはその容姿が目立つことをわかっているのか、街に入ると頭を隠すように外套を被った。それは昨日と同じ外套で、タリザは胸の鼓動が速まるのがわかった。
「腹が空かぬか?」
一時間ほど街を歩き回ったところで、ラズナンがそう言った。空を見上げれば太陽が真上に来ており、丁度昼時であることを示していた。
「お前は無口な奴だな」
何も答えないタリザにラズナンは苦笑した。そしてふいにその額を触る。
「熱はないようだな。顔が赤いから熱があるかと心配したぞ」
「!」
その言葉、行為に顔をまた赤くなるのがわかった。
一緒にいると胸が苦しくて、言葉がでなかった。
でも側にいるのが嬉しかった。
「……触らないでください」
気持ちに反して、冷たい言葉が口から出る。
「悪かったな。我といるのが退屈か?シュイグレンの街は楽しいぞ。そうか、我の案内が悪いんだな。別のものをつけよう?すぐに、兵士を呼んで……」
「……待ってください」
タリザはどこかに行こうとするラズナンの腕を思わず掴んでいた。
ラズナンの青い瞳が自分を見つめるのがわかった。
「昼食をとりましょう。友人が紹介してくれた店を知っているんです」
タリザはラズナンから視線を逸らすと、小さな声でそう言った。顔がまた赤くなっているのがわかった。
「そうか。我も腹が減った。そうしよう」
ラズナンは真っ赤になったタリザを見て微笑んだ。
「この辺だと思ったのですが……」
十分ほど歩き進めて、タリザは昨日ネスに連れていかれた店への道を忘れたことがわかった。
「フォーグレンの民にはこの街は難しいだろう。我のお勧めの店に連れていこう。ここから近いぞ」
そう言ってラズナンはタリザに背中を向けた。
「!」
不意にタリザは頭上に何か気配を感じた。そして何かがラズナンに向かって飛んだのがわかった。
「ラズナン様!」
タリザは反射的にラズナンの背中を押した。その直後、自分の肩に氷の矢が刺さるのがわかった。
水の力!
「タリザ!」
ラズナンは肩から血を流すタリザに走り寄る。
「ラズナン様、ここは危険です。私が引きとめている間に逃げてください!」
「逃げるとは……お前を置いていけるわけなかろう!」
「……大丈夫です。私は……私は火の神官です」
タリザは懐から真っ赤な『神石』のかけらを取り出すと、鞭に変化させる。そして再度屋根から放たれた氷の矢を砕いた。
「タリザ……」
タリザはラズナンのつぶやきに落胆の思いがあるのがわかった。しかし、今はラズナンの身を守ることが先決だった。
「ラズナン様!お願いです。逃げてください!」
タリザはそう言うと鞭を構えて跳んだ。