フォーグレンの神官49
シュイグレン城の中庭はよく刈り込まれた美しい庭で、噴水から聞こえる水音が涼しげだった。
午前の柔らかな日差しの中、二人の美しい女性が優雅にお茶を飲んでいた。二人の女性の顔立ちはよく似ており、金髪碧眼の美女。中庭に置かれた円卓を囲み、楽しげな様子だった。
髪を頭の上で高く結っているのが第二王子マシラの妃リエナで、長い金髪を後ろの方で結んでいるのがその妹リリアであった。リリアは王太子ラズナンの妃であり、姉同様大きなお腹をしていた。二人はシュイグレンの国を表す藍色のクッションを背に、椅子に深く腰掛けていた。
「リリア、安心しなさい。子供なんて勝手に出てくるのだから。まあ、少しは痛みがあるけど」
すでに六人の子供を生んでいるリエナは、初めての出産で緊張ぎみなリリアに、笑いながらそう言った。
二人ともすでに臨月に入っており、出産のため実家のファレスト家に明日から帰ることになっていた。本来ならば城で出産すべきなのだが、リエナのたっての願いで、出産は実家で行うのが習慣になっていた。王太子の子供を身ごもるリリアも本来ならば、城での出産を望まれていたが、姉リエナと同じように実家に帰ることを希望し、特別に許可が下りていた。
「あら。リリア。ラズナン様だわ。どこにいくのかしら?」
ふと庭を横切って、裏門のほうへ歩いていくラズナンの姿を見て、リエナは首をかしげた。
「多分、街にいくのでしょう。ラズナン様は時々、街にお忍びで下りて、街の様子を見ているようなのです」
「そう……妻が明日帰るというのに」
「いいのですよ。お姉さま」
不服そうにそう言うリエナに、リリアはちょっと困ったような笑みを浮かべた。
二人が見ているとも知らず、銀髪に青色の瞳の美しい王太子ラズナンは、いつものように白い外套を羽織ると、街に出るために裏門に向かっていた。
「どうだ。あの店の飯うまかっただろう。シュイグレンの名物料理だぞ」
店から出たネスは満足そうにカネリとネスにそう言った。
朝から水の神殿を案内したネスは美味い店があると、カネリとタリザを街に連れ出した。キィラは大神官ルイのところで『神石』のかけらの発明品作りに忙しいということで、昼食は三人で取ることになった。そしてネスの提案で坊主頭のカネリとタリザは目立つからと、強引に変化させられていた。
機嫌のいいネスの後ろで、街をぶらぶらと見ながらタリザは顔をしかめていた。それは十数年ぶりに経験する髪の毛のせいだった。
「頭がかゆい、首がかゆい……。髪の毛ってなんて不便なのかしら!」
タリザは肩まである黒髪を煩わしそうに掴みながらそう言った。その隣のカネリは黒髪を頭の上で団子にしてあるので、首は涼しげだった。
「こんな中途半端な髪にしなきゃよかったわ」
タリザがそう嘆くとネスが笑った。
「タリザ、そう言うな。その髪型、なかなか似合ってるぞ。カネリみたいな髪にしたら坊主頭と変わらんぞ」
「うるさい奴だな。変化してやってるだけでもありがたいと思え。髪なんてうっとうしいだけだ」
カネリはそう言ってネスを睨みつけ、街を見渡した。久々に訪れたシュイグレンは相変わらず賑やかで色彩豊かな場所だった。
街の人は、多くの者が白い肌で、茶色や銀色、金色の髪をしていた。目の色も青色や緑色で、フォーグレンの褐色、黒髪、黒目の人種とは違い華やかに見えた。
華やかな色の中で、カネリやタリザのように暗い色彩は珍しく、街の人々がちらちらと振り返るのがわかった。
「なんか、目立ってるな。どうせなら、金髪碧眼の美女に変化してもらえばよかったかな」
「……結局目立つなら、変化の必要はなかったな」
カネリは怒りを交えてそう答え、ふとタリザが側にいないことに気がついた。
「タリザ?ネス、タリザが消えた」
「?!」
ネスは目を見開くと周りを見渡す。しかし、タリザらしい人影はどこにもなかった。




