フォーグレンの神官41
「マシラ。久しいな」
シュイグレンの第五十一代目マシラ王は、十七年ぶりに現れた兄ラズナンの姿に驚きを隠せなかった。目を大きく開き、ただ自分を見つめるマシラにラズナンは笑いかけた。その後ろにはデイ、ヤワン、ズウにツゥリが控えている。
マシラを守るはずの兵士は姿を見せなかった。
「マシラ。十七年も会っていなかった兄に何も言うことはないのか?それとも生きていたこの我が珍しいか?」
「……あ、兄上。よく御無事で」
マシラは、青い冷たい目で冷ややかな笑みを浮かべるラズナンに、ぎこちなく笑顔を見せ、やっとそれだけ口にした。
「十七年間。ご苦労だったな。王座を我に返してもらうぞ。この椅子は我が受け継ぐものだと決まっていたのだからな」
ラズナンはそう言うと、玉座に座るマシラの腕を掴み、玉座から引き擦り降ろした。そしてどかっと自らが玉座に座ると愛おしそうに肘置きを撫でた。マシラは玉座の足元で、両手を床に突き、尻もちをついた形で、ラズナンを見上げていた。その額には脂汗が浮かび、その縮れた金髪は濡れ、べっとりと顔に張り付いていた。
マシラは自分を守るはずの警護兵、そして王妃や王子達の姿が見えないことが不思議だった。嫌な予感を感じ、マシラの顔は顔を引きつらせた。
「マシラ。心配するな。お前の息子達は生きている。今のうちだがな。ズウ、トゥリ。そいつを地下牢に入れておけ。息子達や妻と再会させてやるのだ」
「御意」
ズウとトゥリは頭を下げると、マシラの両側に立ち、その腕を掴んだ。
「あ、兄上!?なぜ私が?血を分けた兄弟ですよ?」
「兄弟。そうだな。確かに。心配するな。兄弟を餓死させたりはしないぞ。朝夕、食事は与えてやる。ハッツハッツハッツ」
ラズナンは自分の言葉面白いのか、ふいに糸が切れたように笑い声をあげた。
「あ、兄上……?」
マシラは様子がおかしな兄に恐怖感を覚え、ラズナンに呼び掛ける。しかしラズナンが答えることはなく、ズウとトゥリは床に座り込むマシラを立たせた。
「離せ!私は王だぞ」
そう叫び、手足をバタバタさせるマシラをズウとトゥリは離さなかった。
「連れていけ」
マシラを見返すこともなくラズナンはそう命じた。
「兄上!!」
マシラはそれを聞いてますます抵抗した。そのうちにその頭から王冠が落ちる。マシラはこれだけは失えないとばかり、必死に手を伸ばして王冠を拾おうとした。しかしズウとトゥリはそれを許さず、そのまま引きずる形で王室を後にした。憎しみの篭った罵りが廊下から聞こえてきたが、その声は徐々に小さくなり最後には聞こえなくなった。
ヤワンは床の上の王冠を拾い上げると玉座のラズナンに手渡した。
「下らん飾りだな」
ラズナンはそう言いながらも王冠をかぶると、デイとヤワンを見つめた。
「さて、これよりシュイグレンは生まれ変わる。兵をあげ、フォーグレンに攻め入るのだ。世界を一つにまとめ、支配するのだ。火の『神石』がフォーグレンに戻らぬ前に事を終わらせるのだ。よいな」
「御意」
「仰せのままに」
デイとヤワンはシュイグレン第五十二代目ラズナン王に一礼すると、それぞれの役目を行うために王室を後にした。




