フォーグレンの神官40
薬店部分でミシノは暇つぶしに店内を見て回っていた。アルビーナは椅子に座り、本を手にとり、ぱらぱらと頁を捲っている。
「アルビーナ。ここまで一緒について来たけど、どうするの?」
ミシノは壁にかかる珍しい薬草を興味深そうにさわり、その香りを嗅ぎながらそう聞いた。アルビーナはミシノの問いに答えようともせず、視線を本に向けたままだった。本を読んでないのは明らかで、その視線はぼんやりとしていた。
「僕はいつも君と一緒だから。例え君が何をしようとも」
ミシノはそんなアルビーナにそう言葉をかけ、店内の探検を続けた。
アルビーナが一人で考えているときは邪魔をしないのがミシノだった。
そして、愛するアルビーナが出す答えにただ従うつもりだった。
セン……。
アルビーナは本をめくる手を休め、視線を窓に移した。窓は薄汚れ、外の様子はまったく見なかった。ミシノが自分を心配してくれているのがわかった。そして自分が結論を出すのを待っているのもわかっていた。
アルビーナは自分がこれからどうすべきかわからなかった。
センの手に触れ、祈った瞬間、何かが自分の中で解けたような気がした。
でもそれが何か知りたくなかった。
センを殺すため、復讐するためにこの二年間生きてきた。
今さら忘れることなどできなかった。
「センさん、ターヤのこと頼む。俺は大神官様の様子をみてくる」
ロセはベッドのターヤの頬に優しく触れた後、部屋を出て行った。
センは壁から離れるとベッドの側の椅子に座った。そしてターヤの握る火の『神石』を掴んだ。意識がないはずなのにターヤは『神石』を握り締めたままだった。センはターヤの手の中の『神石』を見つめた。石から輝きが消えているような気がした。
おかしいな。
石に触れると何も気配を感じなかった。
しかし、ターヤごと『神石』に触れると神がいるのがわかった。
どういうことだ?
火の神はターヤの中にいるのか?
神が人間に宿るなど、そんな話聞いたことなかった。
『神石』に神が宿ることすら、一部の人間しか知らないことだった。
『ターヤを連れて行きなさい』
カネリは何度もそうセンに言った。
大神官様はこうなることを知っていたのか?
センは呆然とターヤを見つめた。
規則的な寝息が聞こえ、ターヤが静かに寝ているのがわかった。
ロセには心配ないと言ったが、センはターヤがこのまま目を覚まさないのではないかと心配になった。
「セン」
ふいに呼びかけられ、センはびくっとして振り向く。
「アルビーナ」
視線の先にはアルビーナが立っていた。その視線は射ぬくようで厳しかった。
「話があるわ。来て」
開け放たれた入口で、アルビーナは首をしゃくりるとセンに背中を向けた。
ターヤのことは後回しだ。
私には私がやるべきことがある。
センは椅子から立ち上がると、アルビーナを追って歩き出した。