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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第2章 水の『神石』
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フォーグレンの神官35

「さあ、みんな。取引先から珍しい砂糖菓子をもらったんだ。みんなで食べよう」


 ヤワンはにこやかに笑うと、給仕に紅茶と砂糖菓子を神官達に振舞うように指示した。

 神官達は見たこともないお菓子に珍しそうな声を上げた。ヤワンを除き、神官達の多くは庶民出身で、砂糖菓子など普段は手に届かないものだった。


「あれ?ロセは?あとあの赤毛の女は?」

「ああ、またミシノの部屋にいるんじゃないのか?俺が持って行ってやるよ」

「そうか?頼むな?珍しいお菓子なんだ。ちゃんと渡してくれよな」


 ヤワンはそう言いながら、バテに数個の砂糖菓子を美しい包装紙に包んだまま手渡した。


「俺は大神官様にお茶を出して来る。みんな楽しんでくれよな」


 ヤワンは、特別に用意したティーセットを掴むと、食堂で紅茶とお菓子を楽しむ神官達に手を振り、キィラの部屋に向かった。




 誰かが優しく自分の頭を撫でるのがわかった。


 誰?


 この香り……。


 アルビーナ?


 うっすらと目を開けると、やはりそこにいたのはアルビーナだった。

 ロセの姿を夢うつつに見た気がしたが、夢だろうと思った。


「ミシノ!」


 アルビーナは微笑むと、がばっとミシノを抱きしめた。

 甘い、甘美な香りが鼻をくすぐる。


「僕どうしたんだっけ?」


 アルビーナの抱擁から解放され、ミシノは体を起こしながらそう聞いた。


「デイのあほに氷漬けにされていたのよ。記憶にない?」

 そう言われてミシノは眉を潜め、記憶を探った。


 デイの槍を受け止め、氷の蔦が体をはっていったのを思い出した。

 そして動きがとれなくなり、思考がとまった。

 最後に覚えているのは自分を呼ぶ声……。


 ロセの声だ。


「思い出したのね?まあ、助かったからいいけど。今あたし達、幽閉中よ!」

「幽閉?」

「そう。火の『神石』を奪ったまではいいんだけど、水の『神石』を奪いにきて失敗。敵陣に捕まったってわけ。まあ、あのくそデイに手下として使われるのに、頭に来てたからいいんだけどね」


 アルビーナの説明にミシノの頭は混乱するのがわかった。

 アルビーナがデイに手下として使われること自体、想像がつかなかった。

 ありえないことだと思ったが、自分が氷漬けにされたことを思い出し、なぜアルビーナがデイの手下になり下がっていたか合点がいった。


「ごめん。アルビーナ……」

「いいわよ。あんたには助けてもらってるし。あんたはあたしの唯一の理解者だから」

「理解者?恋人じゃないの?」

「恋人?あたし達ってそういう関係だったかしら?」

「そうだよ。君は僕の唯一の恋人」


 ミシノがそう言ってアルビーナの頬を両手で包み、そっと唇を重ねた。


「入るぜ」


 ふいに声がして、ロセが部屋に入ってきた。その手にはバテから渡された珍しい砂糖菓子を携えていた。しかし二人が唇を重ねているのを見て、目を見開く。


「悪い、邪魔したぜ」


 さすがに初心な青年ではないのだから、顔を赤らめたりはしないのだが、間が悪いとロセが慌てて部屋を出ていこうとした。


「待ちなさいよ」


 そんなロセを呼びとめたのはアルビーナだった。


「別に邪魔じゃないわよ。話があるんでしょ?ミシノに」

「アルビーナ?!」


 ミシノが抗議の声を上げた。

 ロセと話すことなど何もなかった。話したくもなかったからだ。


「この軽薄男は、あんたを助けようと頑張っていたわよ。仲直りしたら?何かされたわけじゃないんでしょ?」

「アルビーナ!」

「あたしは部屋を出るわね。二人でゆっくり話しなさいね」


 アルビーナは不機嫌そうに顔を歪めるミシノ、戸惑うロセにそう言うと部屋を出た。



「体は大丈夫か?」


 しんと静まりかえった部屋でロセはそう言葉を切り出した。そして砂糖菓子を机に置き、ベッドの傍の椅子に座る。


「うん。まあね」


 ミシノはそれだけ答えるとそっぽを向いた。

 話したくなかった。


「……ミシノ。なんで、俺に話してくれなかったんだ。そうすれば」

「……何のこと?君には関係ないだろう?」

「俺は全部知ってる。調べた。気づかなくて悪かった。でも話して欲しかった……」


 顔を背けるミシノの横顔をじっと見ながらロセはそう言葉を続けた。


「……知ってるんだ。全部」

「ああ」


 ロセの頷きを聞き、ミシノは天井を見上げた。涙が出そうになる。


 ロセには知ってほしくなかった。

 自分がしたことを、されたことを。

 

「ミシノ!」


 ロセはそう呼ぶと、ふいにベッドの上のミシノを抱きしめた。


「ごめん。本当にごめんな」

「な……なんでロセが謝るんだよ」

「俺自分のことばかり考えて、気づかなかった……」

「別に……君のせいじゃないよ。僕は君に知ってほしくなかった」

「でも俺は知りたかった」


 ロセはミシノを腕に抱きながらそう言った。


「軽蔑する?男に抱かれたなんてさ」

「俺は軽蔑なんてしないぜ。むしろよく我慢したと思うよ。あの少年のことも悪かったな」


 ロセの言葉にミシノは自分が安堵するのがわかった。水の神殿で共に学び、競い合ってきた。ライバルであり友人でもあった。

 そんなロセに自分の影の部分を知ってほしくなかった。


「……でも悪いが…俺はお前の気持ちに答えられない」

「?!」


 ふいに漏らされたロセの言葉にミシノは目が点になった。

 そしてその意味を知り、顔を真っ赤にしてロセをはり倒す。


「君は僕のことそういう目でみたわけだ。悪いけど、僕もそういう趣味はないんだ!あれはしょうがなくやったことなんだ」


 ミシノにはり倒され、床に尻もちをついた状態でロセはミシノの怒りに燃えた顔を見上げた。


「……そうか、そうなんだ」

「そうだよ!まったく失礼な」


 ミシノは怒りが収まらない様子でベッドから降りたが、ロセに手を差し出す。


「僕は男色趣味なんてないの。僕が好きなのはアルビーナなの」

「いやあ。そうなんだ。てっきり俺はそうなのかと」


 ミシノの手に取り、立ち上がりながらロセはそう言葉を続ける。ミシノはぎろりをロセを睨みつけた。


「それ以上言ったら殺す」

「悪い。悪い。言わない。約束する」


 ロセは笑いながら右手をミシノに差し出す。


「なに?」

「仲直りしようぜ。俺らの友情復活な」

「……」


 ロセは、なかなか手を握り返そうとしないミシノの右手を強引に掴んだ。

 そして手を握り、ぶんぶんと振り回す。


「一、二、三っと。仲直りだ」


 ミシノはロセの暖かな手の感触を感じ、怒りが解けるのがわかった。

 

 心にいつまでも残る悔恨の念。

 シャンを救えなかったという後悔は消えない。

 腐った王族を守る神官……という役職、そのせいでシャンを見殺しにした。

 

 しかし、神官のロセが友人であることは変わらないことだった。

 

 



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