フォーグレンの神官32
暖かい。
誰かがそばにいるの?
アルビーナが目を開けると誰かが自分に覆いかぶさっているのが見えた。
それがセンだと分かるとアルビーナは息が止まりそうになった。
火の龍が水の龍に飛び掛り、天井が崩れ落ちた記憶が残っていた。
そう、たしか誰かがあたしの名前を呼んだっけ。
センは気を失い、その体は埃にまみれ、服がいたるところ破けていた。
そして血が出ているのが見えた。
あたしをかばったの?
自分に覆いかぶさるセンの体から抜け出てアルビーナは周りを見渡した。
瓦礫が周りに落ちていた。
どうなっているの?
瓦礫を手でかき分け外に出ると、デイが男と戦っているのが見えた。
男の側にはターヤが倒れているのが見える。
「ほう、俺の力をまともにくらって、まだ立ってられるか」
「俺がここで倒れたら終わりなんだ。俺にはまだやり残したことがたくさんあるんだよ。ミシノの野郎を元に戻して聞かなきゃいけないこともあるしな」
ミシノ?
そう、あれは水の神官ね。
確か名前はロセだっけ?
ミシノが言ってたわ。
黒髪の軽そうな男が神官の中にいて、そいつが苦手だって……
あいつがそうなんだわ。
苦手って……
きっとその逆の意味なんだわ。
あの男――ロセはミシノを助けたいと思ってる。
きっとミシノの友達だったんだわ
アルビーナは傷ついたセンの顔を見つめた。
センとは後でしっかり決着をつけるわ。
アルビーナは視線をデイに向けると、地面の上できらきらと煌めく火の『神石』を拾った。
水の神官であればミシノにかけられた術をとけるはず。
だからどうにかしてミシノの氷の珠を奪い返してやるわ。
「火の神よ!」
アルビーナは力を振りしぼり、そう叫んだ。
すると『神石』が杖に変化した。
お願い!デイから氷の球を!
アルビーナの心の声に火の神が答えたのがわかった。
杖から龍が飛び出す。そしてデイに向かって龍が襲いかかった。
からんと杖が地面に落ち、元の石の姿に戻る。アルビーナの体は力を失いその場に倒れた。疲労と眠気が広がる。指一本すら動かせなかった。瞼がゆっくりと閉じ、視界が真っ暗になる。デイの悲鳴が聞こえ、アルビーナの意識はそこで途切れた。
☆
ふいに火の龍が現われデイを襲った。
驚くロセの目の前で、龍がデイの体に食らいついた。そして宙に飛び上がると、その体を振り落とす。
デイの体が地面に激突し、神殿の庭であった場所に小さな陥没が出来る。止めとばかり、龍が急下降したが、ふいに声を上げるとその姿が空気にとけるように消えた。
全身疲労のロセの足元に小さな氷の珠が転がってきた。腰をかがめて取ると、その中に小さな金髪の人形が見えた。
目を凝らすとそれがミシノであることがわかった。氷漬けにされているようでその姿が人形のようだった。
「確か三日間は生き延びると言っていたな」
昨日から閉じ込められているから、今日ならまだ二日目だ。
ロセは小さく息を吐くと、地面に叩きつけられ、気を失っているデイを見た。そして瓦礫の山となった神殿を見る。
「派手にやったなあ」
「ロセ!」
それまで様子を窺っていた水の神官の一人がそう声をかけてきた。
「ヤワン先輩、何してたんですか!?」
「いやあ。すごかったなあ。すまんな。戦いがすごすぎて神官たちを救出することしかできなかったよ」
ロセと同じく上級神官のヤワンは悪気なさそうにへらへらとそう笑った。よく見るとヤワンは怪我もしておらず、ロセはため息をついた。
ヤワンはロセより五歳年上の上級神官だった。力はロセに劣るが、加勢ぐらいはできるはずであった。
「さあ、大神官様を探しましょう」
ヤワンがそう声をかけると、今まで状況を見守っていた他の神官達が恐る恐る姿を見せた。そして瓦礫の中から、キィラを救出する作業などを進め始めた。それまで市民が戦いに巻き込まれないようにバリケートを作っていただけの兵士達も安全を確認した上で、その作業に加わり始めた。
まったく、自分の国ながら、あきれてものが言えないぜ。
勝てない戦はしない。
さすがシュイグレンだな。
しかし、ため息をつきながらもロセは戦いが終わりほっとしていた。
そしてターヤの側に歩いて行き、座りこむ。
今なら隙だらけだな。
でもそんな力も出ないけどな。
ロセは空を見上げた。
太陽が傾き、空が藍色とオレンジ色の層を重ねている。
夕暮れの涼しい風が吹き、戦いで疲れた体を癒してくれるようだった。




