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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第2章 水の『神石』
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フォーグレンの神官27

 ガラスが割れる様な音が水の神殿に響き渡った。

 白髪のライオンのような頭髪に、長く髭を生やした壮年の男――水の大神官キィラは顔をしかめると机に置いていた眼鏡を掴んだ。そして眼鏡を装着すると本殿警護の神官に声をかける。


「ダラさん!結界が破られました。皆に戦闘態勢をとるように伝えてください」

「はい。了解いたしました!」


 ダラは頭をぺこりと下げると足早に本殿を後にした。


「さあ、誰が来たんでしょうか。結界を破るものがいるなんて」


 口調は呑気だが、キィラの表情は厳しかった。副大神官のネス、そして上級神官でもトップクラスのロセが不在だった。結界を破るくらいの力のある者と対峙するにしては戦力が不足していた。


「水の女神様、今度はあなたの力を借りなければならないかもしれません」


 キィラの言葉に、本殿奥の美しい女神像の掌に置かれている青い石が答えるように青い光を煌めかせた。



「へえ、ここが水の神殿ね。火の神殿と大した違いはないわね」


 天井を突き破り、アルビーナとデイ、そしてズウとツゥリは水の神殿に侵入した。

破壊音を聞きつけて、数名の神官達が集まり、アルビーナ達を囲んだ。いずれも『神石』のかけらを武器に変化させ、いつでも戦えるように構えている。


「ふうん。水の神官っていうのは普通の男と変わんないのね」


 自分達囲む神官の面々をみてアルビーナは意外そうにそうつぶやいた。水の神官はいわゆる神官服を着ていたが、坊主頭の者は見当たらず、皆髪の毛を思い思いに伸ばし、髭を生やしている者もいた。


「まあ。いいわ。痛い目みたくなかったら、水の『神石』を渡しなさい」


 アルビーナはそういうと杖を神官達に向けた。杖から火の龍が現れ、アルビーナを守るように飛び回る。

 水の神官たちはおびえた視線を火の龍に向けたが、逃げるものはいなかった。


「馬鹿な神官どもよ。命が惜しくば逃げればいいものを」


 デイはそう言うと『神石』のかけらを鞭に変えた。そしてそれを振り上げ、氷の雨を作り出す。何名かの神官に氷が突き刺さり、血を流し倒れる。


「さすがデイ様。俺もいくぜ!」


 ズウは剣を作り出すと神官達に向かって走り出した。そしてトゥリは弓矢を作り、氷の矢を放ち始めた。


「ああ、もう。本当好戦的なやつらね。早く水の『神石』ださなきゃ、あんたら全滅するわよ」


 アルビーナはため息まじりにそう言い、火の龍を放った。



「始まりましたか……」


 本殿に遠くから爆発音が聞こえた。そして悲鳴が聞こえる。

 水の大神官キィラは女神像の掌から青い『神石』をそっと掴んだ。それは青い柔らかな光を放つ。


「女神様、私に力をお貸しください」


 キィラが『神石』を懐に入れて、本殿から外に出ようとすると、ふいに破裂音が聞こえた。そして眩い光が本殿内で弾けた。


「ごほっつ、ごほっつ」

「気持ち悪い……」


 驚いて見守るキィラの目の前で、光が人の形を取った。人影は三人で、そのうち二人は見覚えのある顔であった。


「ロセさん?」

「大神官様!」


 ロセは目の前にいるのがキィラだとわかると、慌てて頭を下げた。センとターヤも慌ててそれに倣うように頭を下げる。水の神殿とは言え、大神官である。敬意を払う必要があった。


「そうかしこまらないで。顔をあげてください。あなたは確か、センさんでしたね?そしてこの子は?」

「ターヤです」

「ターヤちゃんね。かわいい子ですね」


 キィラはターヤに向かって微笑んだ。ターヤはちゃんづけで呼ばれ、頭を殴られた衝撃を受ける。しかし、ロセのように噛みついていい相手ではないことはわかっていたので黙って頭を下げた。


「ロセさん。何が起きたか話してもらってもいいですか?何者かが神殿に侵入しました。私の結界を破るものなど、考えられません。まさか……」

「大神官様、残念ながらそのまさかです。デイが火の神使人しんしとと組み、火の『神石』を奪いました。そして今、水の『神石』を狙っています」

「……やはりそうですか。それは困ったさん達ですね」


 緊迫している状況に関わらずキィラの言葉はゆったりとしたもので不思議だった。ロセはなれているらしく、ただ頷いている。センは数年前に面識があるので驚くこともなく、ただ二人を見ていた。ターヤは初めてみるおかしな大神官に、戸惑いを隠せなかった。


「そういう状況であれば、やはり水の女神様の力を借りるしかないようですね。私が火の『神石』の相手をしましょう。あなた方は他の方をお願いします」


 キィラはそう言うと、懐から『神石』を取り出し三叉の鉾に変えた。



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