フォーグレンの神官0
オレンジ色の光が窓から差し込む。
夕日を背にフォーグレンの王子、ハーヴィンはじっと上級神官センを見つめた。
ハ―ヴィンは褐色の肌に少し長く伸びた癖のある黒髪を後ろにまとめた、整った顔立ちの青年だった。
「セン。私は君が好きだ。これからもずっと好きだろう」
ハーヴィンは向かいに立つセンを見つめて、震える声でそう言った。
センは火の神殿から派遣された女性神官だった。火の神殿には女性神官しかおらず、センは他の神官同様髪を剃り落しており、官位が上であることを示す、金色の輪をその頭につけていた。輪の中心には赤い石がつけられており、それが切れ長の瞳の上できらきらを輝いていた。センはその美しい顔に感情を浮かべることなく、ハーヴィンを見つめ返した。
「セン。君の気持ちが私にないことを知ってる。ただ最後の夜、君に私の気持ちを伝えたかった」
「……私は神官です。そのような気持ちは存在しません」
センは切なげに自分を見つめるハーヴィンから目を逸らすと、そう答えた。ハーヴィンは小さく息を吐くと、センに背を向ける。
「君が私をずっと恨んでいることを知っている。君は私のために友をなくした。すまなかった。私は明日結婚する。君はもう自由だ。神殿に帰るといい」
ハーヴィンは、センに背中を向けたままそう言葉を紡ぐと、扉まで歩く。
扉が閉まる音がして、部屋が真っ暗になる。
センは額に輝く赤い小さな石に触れると、もう一つの手を宙にかざした。すると手の平に小さな炎が作りだされる。
円卓の上の蝋燭の芯の部分に炎を近づけると、蝋燭に火が灯り部屋が明るくなった。
「もうすっかり日が暮れてしまったんだ。帰る支度をしなければ」
ハーヴィンが部屋に来た時、夕暮れの光が部屋に充満していた。その穏やかな顔はいつもと違い強張っていた。センが何か心配ごとがあるのかと聞くと、ハーヴィンは熱を帯びた瞳のまま、口を開いた。
初めから王子の気持ちは知っていた。
そのために友のアルビーナを無くした。
宮殿なんか来たくなかった。
王子が明日結婚する。
やっとこれで神殿に帰れる。
あの空間で静かに暮らせる。
それはセンがずっと望んでいたことだった。
しかし今の彼女は嬉しいどころか、胸が痛み、切なげなハーヴィンの瞳が脳裏から離れなかった。