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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第2章 水の『神石』
29/133

フォーグレンの神官26


「ティアナ姫」


 ハーヴィンがそう呼び掛けるとシュイグレンの姫君、ティアナは嬉しそうに微笑んだ。黄金の美しい髪が波打ち、その瞳は澄み切った空のように青かった。

 この華奢な人形のような姫が自分のために大神官を刺すなど想像もできないことだった。


「お目覚めになられたのですね」


 ティアナはその青い瞳を潤ませ、ハーヴィンを見上げるとその胸に飛び込んだ。ハーヴィンはティアナの柔らかな感触、その甘美な香りに眩暈を覚えた。しかしハーヴィンはティアナに微笑を向けるとその体から離れた。

 もしもハーヴィンにセンと言う想い人がいなければこの香しい姫君に囚われていたに違いなかった。しかしハーヴィンの心は揺るがなかった。


「やはりあなたには想い人がいるのですね」


 ティアナは唇を噛み、俯いた。

 ハーヴィンとの結婚が決まってこの日を待ち望んでいた。しかし宮殿に来てセンという神官の噂を聞き嫉妬に心を妬いた。直に2人の姿を見て、ハーヴィンがいかにセンを愛しているかその目で知った。


「でも私はあなたをあきらめるつもりはありません。フォーグレンに『神石』がないとわかればシュイグレンがどうでるか、おわかりですよね?ハーヴィン様……」

「ティアナ姫?!」


 ハーヴィンはティアナの言葉を疑った。この慎ましい姫君からそんな言葉が出るとは予想をしていなかった。


「あなた様は私と結婚する道しか残されていないのです。私はあなたを愛しています」


 ティアナはそう囁くとハーヴィンの背中に手を回した。ハーヴィンは雷に打たれたように動けなかった。


「ハーヴィン様、愛しています」


 ティアナはそう繰り返して言うと、背中に回した手に力を込めた。

 

 ハーヴィンはティアナの手を払いのけることができなかった。アルビーナが化けたセンに誘われ、ハーヴィンは自分の気持ちを再認識した。

 ティアナとは結婚するつもりはなかった。しかし、ティアナが漏らした言葉は事実だった。

 ハーヴィンがティアナとの婚姻を反故すれば、シュイグレンがフォーグレンに戦を仕掛ける可能性もあった。『神石』がないフォーグレンはシュイグレンにとって脅威ではなかった。



⭐︎


「同時に力は放つ。二つの力が相まって、跳べるだろう」


 カネリはセンに支えられ、ベッドから床に降り立つとそう言った。ネスは青い『神石』のかけらを左手に持ち、右の掌をロセに向ける。


「セン、ロセ、ターヤ。手を取り合うのだ。さもなければバラバラに跳ばされるぞ」


 ネスの言葉にセンはターヤの手を取る。するとロセがすかさずターヤのもう片方の手を掴んだ。ターヤは顔色を変えて睨みつけたが、放すわけにはいかずカネリとネスに視線を向ける。


「さあ。いくぞ」


 カネリは右手を額の赤い『神石』のかけらを重ね、左手をセン達3人に向けた。


「ネス!」

「カネリ!」


 2人の声が重なり、力が放たれる。部屋中が光で満たされる。


「?!」


 センは眩しさのあまり目を閉じた。ターヤは緊張してセンとロセの手を握りしめる。ロセはそんなターヤに微笑むと手を握り返した。

 ぽんっと弾ける音がして、光が部屋の四角に分散した。そして光と煙が部屋から消える。


「成功したか……?」


 部屋に残されたのはカネリとネスだけだった。

 カネリはほっとするとその場にしゃがみこんだ。


「カネリ!」


 ネスはカネリに手を貸すとベッドに連れて行った。


「ネス。キィラは大丈夫だろうか。間に合うといいんだが」


 カネリはベッドの上で横になりながらそうつぶやいた。


「大丈夫だ。奴は頼りなく見えるが列記とした大神官だ。簡単にやられはしない。ロセ達は無事に送られたはずだ。お前の部下も私の部下も優秀な神官だ。必ず『神石』を取り戻せる」


「そうだな。きっと……」


 ネスの言葉にカネリは表情を和らげると目を閉じた。



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