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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第1章 火の『神石』
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フォーグレンの神官19

「このくそ!」


 ロセは剣を構えるとデイに振り下ろした。デイは仮面の奥の瞳を薄気味悪く光らせると、氷の蔦が作りだした氷の球体の中で動きのとれなくなったミシノを、地面に蹴りつけた。そして槍で剣を簡単に受け止めると、ロセの体を押し返し、至近距離から氷の矢を放った。


「ちくしょう!」


 ロセは必死に氷の矢を砕こうとするが、間に合わず数発が体に刺さる。そして血が噴き出し、ロセの体は力を失い地面に激突した。


「終わりか……。あっけなかったな」


 デイは地面の上で静かに横たわるターヤ、血にまみれて気を失ったロセ、氷の球体に閉じ込められたミシノを見下ろし、呟いた。


「へぇ。結構強いのね。あんた」


 ふいにそう声が聞こえ、デイは振り向いた。


「……火の神使人か」


 そこには真っ赤な髪を風になびかせ、皮肉な笑みを浮かべるアルビーナの姿があった。


「あの売女の娘が負けたのか」


 デイが意外そうにそうつぶやき、アルビーナは顔を歪める。しかし『神石』を鞭に変えると構えた。


「そんなことどうでもいいでしょ。クソ王子を返してもらうわ」


 アルビーナはそう言うと鞭を振り下ろした。


「ふん」


 デイは鼻を鳴らすと、ハーヴィンから手を離した。アルビーナの注意が逸らされた隙に、デイは鞭を掴み、その体を引き寄せる。

「赤い髪か。好みではないが、試すのも面白いかもな」

「気持ち悪い。あんたなんかとごめんだわ!」


 アルビーナは鞭を剣に変えると、自分を抱くデイの懐を狙う。


「甘いな」 


 デイは軽くその攻撃を避けると、地面に衝突する寸前のハーヴィンを掴み、降ろした。


「面倒だが死んでもらっては困るからな。さあ、アルビーナとやら。俺の力を見せてやろう」

 



「カネリ……。起きてるか?」

「……ああ、なんだ?」


 大神官――カネリは上着を羽織ると扉を開けた。そこには緊迫した顔のネスがいた。


「デイをフォーグレンで見かけたものがいる。もしかしたらこの件にも関わっているかもしれない」

「デイが?」


 カネリは眉をひそめるとネスを部屋に入れた。そしてランプに火を灯す。部屋がぼんやりと明かりに包まれた。


「あいつはお前のところにいるんじゃなかったのか?」


 カネリは詰るようにネスにそう聞いた。ネスはため息を漏らし、カネリを見つめる。


「数年前に神殿を抜けだし、そのまま行方がわからなくなっていた。ここ数カ月のシュイグレンの王族の誘拐に関わっているのはわかっていたが、尻尾が掴めなかった」

「お前らしくないな」


 カネリが失笑すると、ネスがため息を再び漏らす。


「水の神殿も人出不足でな。使えるものがあまりいない」

「お前の部下なのによく言うな」


 カネリはネスの言葉に再び苦笑したが、表情を改めると火の『神石』を隠しているベッドに目を向けた。


「あいつの狙いは火の『神石』だな。水が奪えないと思うと火に切り替えたか。火の『神石』は火の神官しか使えないのだがな」

「奴は知らないんだろう。まあ。どっちにしても用心はした方がいい。奴を最後にみたものが先ほど死体で見つかった。殺されたのは数時間前だ」

「……そうか」

「『神石』はここにあるんだろう?」

「……」


 ネスの問いにカネリは答えなかった。しかし、ネスは答えを知っていた。


「私もここにいる。いいな」

「勝手にしろ」


 カネリはそう答えると、ネスに背を向けた。そして開け放たれた窓から夜空を見た。

 まだ夜が明けるまで、まだ数時間はかかるはずだった。



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