フォーグレンの神官18
アルビーナの青色の鞭が体をかする。
センは鞭をぎりぎりで避けると蹴りを繰り出した。
アルビーナはそれを体をひねり避ける。
「火の力は使わないの?じゃ、こういうのはどう?」
肉体的攻撃しか仕掛けてこないセンにアルビーナは皮肉な笑みを浮かべると、火弾を作り投げた。そして同時に鞭を振り下ろす。
センは手の平に火のグローブのようなものを作ると、手刀で火弾を真っ二つに割り、鞭を掴んだ。
「ふん、やるわね」
アルビーナは掴まれた鞭を手元に戻すとそれを両手で掴む。
力を振るえるのが嬉しかった。
センを殺したいと体中から力がみなぎっていた。
センは息を整えるとアルビーナを見つめた。
アルビーナは自分を殺す気だ。
本当はここでアルビーナに殺されたかった。
この二年、苦しかった。
自分を大切にしてくれたアルビーナを裏切り、宮殿にあがり、のうのうと暮らしていた。時折ハーヴィンからもたらされる不思議な感情に左右されるもの嫌だった。
しかし、今ここで死ぬわけにはいかなかった。
今のアルビーナが『神石』を持てば、その力を解放させることがわかっていた。
それはできなかった。
だから、戦うしかない。
「セン。いくわよ!」
アルビーナは火の鞭を槍に変化させるとセンに向かって跳んだ。
☆
「おっさん、息が切れているじゃねーか」
デイはロセとミシノの見事な連続攻撃に苦しんでいた。ミシノが水弾を放つと間髪いれず、ロセは剣を振り下ろしてきた。ハーヴィンを片手に抱え、二人の相手をしているデイは徐々に追い込められていた。
しかし、夜空にもう一つの白い影が見えた時、デイは薄笑いを浮かべた。そして躊躇なくそれに向かって、氷の矢を放った。
ターヤがフォーグレンの方角に飛んでいると、戦っているロセたちが見えた。そう思った矢先、何十本もの氷の矢が飛んできた。
「うわ!」
ターヤは『神石』のかけらを使うと慌てて、火の壁を作り上げた。しかし何十発もの氷の矢は壁を破壊し、そのうちの数発の矢がターヤの体をかすめる。
「ターヤ!」
ロセは力を失い地面に落ちようとするターヤを追った。ロセの後方に向かって矢が放たれた時、まさかターヤが追ってきてるとは思わず油断した。ロセは地面擦れ擦れでターヤを抱きかかえるとゆっくりと降り立った。
デイはその隙を見逃すこともなく、氷の槍を作り出すとミシノに向かって飛んでいた。
「くっつ」
ミシノは素手でそれを受けとめた。すると槍から氷の蔦が生み出され、ミシノを覆っていく。
「ミシノ!ターヤ少し、ここで待っていてくれ」
ロセは気を失ったターヤを静かに地面に降ろすと、デイに向かって飛んだ。
☆
「もう終わり?」
アルビーナは、地面に膝をつき顔を伏せるセンを見下ろした。アルビーナを傷つけないように、火の攻撃を使わないセンは決定打を打てなかった。しかし、殺す気のアルビーナはここぞとばかり、火弾や火の矢を繰り出した。そして防御ばかりのセンは徐々に追い込まれていた。
「死んでもらうわ」
アルビーナは肩で息をするセンに向かって、槍を剣に作り返ると振り上げた。
「アルビーナ……」
センは目を閉じた。
これで終わりだと思った。
『神石』を渡してはならない。
そんなことはわかっていた。
しかしアルビーナを傷つけたくなかった。
大神官様
申し訳ありません……。
私はあなたにはなれません……。
しかし、痛みは降りて来なかった。
目をゆっくりと開けると苦痛の表情をしたアルビーナの顔がそこにあった。
「どうして、なんで。できないの。こんなに憎いのに!」
アルビーナの叫びのような声が聞こえ、ドンと痛みがあった。そして意識がなくなった。