フォーグレンの神官15
「ロセ。久しぶりだな」
「ズウか。あいかわらずむさくるしい奴だな」
ロセは剣を片手に青い槍を構えるズウを睨んだ。ズウとは神官と神使人として何度が戦ったことがあった。下級神官になった時に、デイの誘いで神使人になったズウは、ロセにして見れば手ごたえのない相手だった。後ろでトゥリと睨み合うターヤを気にしながら、ロセはズウの動きを目で追っていた。
ズウの槍から氷の礫が放たれ、ロセはそれを剣で粉砕すると、ズウに向かって飛んだ。ズウは槍を構え、ロセの剣を受け止める。
「俺を甘くみるなよ!」
ズウは力いっぱい槍を押した。するとロセの体が衝撃で跳ね飛ばされ、家の壁を突き抜け、勢いよく外に追い出される。
「まったく、相変わらず力だけは強いな」
ロセは剣を杖の代わりにして立ち上がった。そして埃を払い、家の中のズウを睨みつける。
「力だけじゃないぞ!」
ズウは槍を振るうと氷塊を数発家の中から放った。
「うわ!」
それと同時に中からターヤの声が聞こえた。
「ターヤ!」
ロセは剣で氷塊を叩き切り、ターヤの援護へと家の中に駆け込む。
「お前の相手はこの俺だ!」
しかし、ズウがロセの前に立ちふさがり、槍を持って飛び掛った。
「くそっ、ターヤ!」
ロセは剣で槍を防ぎながらターヤに顔を向けた。
目の前でターヤに向かって氷の矢が飛ぶのがわかった。しかしそれは、ターヤに届く前に破壊された。破壊したのはセンの放った火弾で、セン自身は火弾を放った後、上空にデイを追って飛びあがっていた。
「ターヤ、大丈夫か!?」
ロセはズウに至近距離から水弾を叩き込み、ズウを退けるとターヤに駆け寄った。そして床にぺたんと座りこんでいるターヤの腕を掴む。
「大丈夫だ!」
ターヤはロセの腕を振り払い、立ち上がった。初めての戦闘でうまく戦えない自分に苛立っていた。自分の力はこんなものじゃないはずだった。しかし、手が震えて思うように力が使えなかった。
「緊張することはない。火の神官は優秀だと聞いている。水の神使人ごときに負けるわけないよな?」
「もちろん」
ロセはターヤの返事を聞くと、にっこりと微笑みその頭を撫でた。ターヤは子供扱いするロセを睨みつけながらも、暖かいロセの手の感触で緊張がほどけ、力がみなぎるのを感じた。
「さあ、早く片付けて、センさんの援護に行こうぜ」
上空に上がったセンの様子を気にしながらロセは剣を構えた。センの腕は一流であることは知っていた。しかしデイは大神官ともやりあったことのある神使人である。雑魚を片づけて早く応援に向かうのが無難だった。
「早く片付ける?俺らを甘くみやがって」
ズウはロセの余裕の様子に苛立って、槍を構えた。トゥリは青い弓を担ぎ、矢をロセとターヤに向ける。
「食らえ!」
ズウは氷塊を、トゥリは氷の矢を2人に向かって放った。
「あんたら、俺らの相手じゃないんだよ!ターヤ!」
ロセは二人から放たれた氷塊と氷の矢を剣で叩き切りながら、後方のターヤに向かって声をかけた。
「わかってる!」
ターヤは火の鞭を両手で掴むと振り下ろした。すると火の雨が鞭から放たれ、ズウとトゥリに降り注いだ。
「そんなもの!」
ズウとトィリは同時に氷の壁を作り出し、火の雨を防いだ。
「もらった!」
ロセは二人の背後に回ると、水弾を一気に叩き込む。
「うぉお!」
2人は防ぐことも敵わず、水弾を受け吹き飛ばされた。そして家の壁をぶち壊し、庭の端っこにある納屋の壁に激突して動かなくなった。
「よっし。これで終わりと。よくやったな」
ロセは微笑むとターヤの頭をぽんぽんと叩いた。
「ぼ、僕を子供扱いするな!」
ターヤはキッとロセを睨むが、彼の暖かい手で緊張が解けたのは確かだった。しかしお礼を言うのは火の神官としてのプライドが許さなかった。
ロセはターヤのそんな様子に苦笑した後に空を見上げた。
夜空にセン、デイ、そしてアルビーナとミシノの姿が見えた。
☆
「あら。センじゃない。牢屋にいるんじゃないのね」
アルビーナはふいに現れたセンを見て一瞬顔を歪めた後、冷たい声を浴びせた。
「アルビーナ……。お願いだ。王子と『神石』はあきらめてくれ。私がすべて悪いんだ」
「馬鹿じゃない?あんた。いまさらそんなこと言っても遅いのよ。すべては終わったこと。あたしはあんたを殺して、『神石』も手に入れるわ」
「アルビーナ!」
センはぎゅっと拳を握りしめた。自分は死んでもよかった。ただ『神石』だけは渡すわけにはいかなかった。
今がチャンスだ。
女どもがもめてるうちに……。
デイは2人が睨み合っているのをみて、薄笑いを浮かべると、ハーヴィンを抱えその場から飛んで逃げた。
「ミシノ!あの黒い奴をお願い!クソ王子を奪い返して」
「了解~」
ミシノはアルビーナに微笑むとデイを追った。先ほどは油断して攻撃をまともに受けたが、同じ手を二度と食らう気がなかった。
「ターヤ!俺はミシノとデイを追う。センさんのこと頼むな。もしかしたら死ぬ気かもしれない」
「ロセさん?!」
ロセの言葉に戸惑っているターヤを残し、ロセはミシノを追い空に飛び立った。
センはデイを追ったロセの姿に少し安堵を覚える。そして再びアルビーナに視線を向けた。
「さあて、邪魔ものはいなくなったわね。セン、覚悟はいいわね」
アルビーナはその真っ赤な髪の毛をかきあげると楽しそうに笑った。