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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第1章 火の『神石』
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フォーグレンの神官12

 薄暗い部屋の中でハーヴィンはじっと天井を見ていた。脱出するためにありとあらゆる可能性を試してみた。しかし、窓はなく、扉は鍵を掛けられ、体当たりしてもびくともしなかった。床の下は岩でとてもでないが穴を掘るなど考えられなかった。


 こうなると脱出する方法はひとつしか思いつかなかった。


 気がすすまないが……。

 しょうがないか……。


「ご飯よ」


 そう声がして、木製の板に食器を乗せたアルビーナが部屋に入ってきた。焼けた鶏の香ばしい香りがハーヴィンの鼻を刺激した。


「王子様には満足できないでしょうけど、王子様用に気をつかってみたわ。あたし達庶民にとっては精一杯のご馳走よ」


 アルビーナはそう言いながら机の上に、食器を乗せていった。ジャガイモの入った美味しいそうスープが置かれ、すこし焦げがついた鶏の腿肉がいい香りを醸し出していた。


「……君が作ったのか?」

「そうだけど?毒は入ってないわよ」


 ハーヴィンの質問にアルビーナはそう答え、椅子に座った。


「さあ、食べて。約束の日まであと二日とすこし。あんたに今死んでもらったり、病気になってもらっても困るから」


 アルビーナは椅子を引いてハーヴィンを誘うと、返事も待たず食べ始めた。ハーヴィンは少し戸惑いながらも、アルビーナの向かいに座る。


「遠慮なく、いただくとするよ」


 ハーヴィンの言葉にアルビーナは一瞬視線を向けたが、そのまま食べ続けた。


「美味しいな。宮殿の料理と変わらないくらいだよ」


 スープを口に含みそう感想を述べるハーヴィンにアルビーナはなにも言葉を返さなかった。

 関係をもったが、アルビーナはハーヴィンに何も感じていなかった。ただ、センの男で王子という思いしかなかった。


「神官をやめて君は何をしていたんだ?」


 ハーヴィンは鶏にかじりつくアルビーナにそう聞いた。しかしアルビーナはぎろりと睨みつけるだけで何も答えなかった。


「このまま私が君とここにおとなしくいるといったら、『神石』をあきらめてくれるか?」

「……あんた馬鹿?誰も彼もがあんたを好きになると思わないでよ。抱かれたのはセンへの復讐。それ以外になんでもないわ」


 アルビーナはハーヴィンを睨み付けたままそう言うと席を立った。一緒に食事を取るのが不快だった。


「アルビーナ!」


 席を立とうとするアルビーナにハーヴィンは声をかけ、その手を掴む。


「離して。それともまた抱きたいの?」


 アルビーナは皮肉な笑みを浮かべると首からぶら下がっている青い石に触れ、センに化ける。


「ああ、抱きたい」


 ハーヴィンはそう答えるとアルビーナの手を引き、その胸に抱きとめた。


「馬鹿な王子ね」

「そうだ」


 アルビーナはハーヴィンの腕の中で皮肉な笑みを浮かべると、センの姿から元に戻った。


「悪いけど、抱かれるのは一度で十分よ」


 そう言って腕の中から逃れようとするアルビーナをハーヴィンは離さなかった。


「君を抱いてみたい」

「!?」


 その言葉を同時に深い口づけがされ、アルビーナは油断した。そしてハーヴィンはその瞬間を逃さなかった。

 トンと音がして、アルビーナの体から力が抜けた。ハーヴィンはその体をそっとベッドに運ぶ。


「すまない。私は君に『神石』を渡すわけにはいかないんだ」


 ベッドの上で力なく眠るアルビーナにそう言うと、ハーヴィンは壁にかけてある剣を取り、部屋を出た。



⭐︎


「どうだ。何か感じるか?」


 アルビーナの生家同様、廃墟と化した金貸しの住処にセン達は来ていた。闇の中で炭となった木材や、黒く焼け焦げた鉄の鍋が散乱する場所へ腰を降ろし、センは地面に片手を付き、気配を探っていた。

 火の神の力を使っているのであれば、その時の様子を視ることができた。


「やはりアルビーナですね。そしてその隣には金髪碧眼の男がいます」

「多分、ミシノだな」


 センの言葉にロセは目を細くした。その表情にセンはロセがミシノという神使人しんしとに何らかの思いを抱いていることを感じていた。


「やめてください!」

「そんなこと言わずさあ。俺達を遊ぼうよ」


 ふいに焼け跡にいるセン達の元へ、そんな声が聞こえてきた。見ると暗闇の中で、一人の若い女性が二人組の男に絡まれているが見えた。


「なんて奴らだ!」


 ターヤは鉄砲玉のように走っていき、女性の前に立ちふさがった。


「この変態!この人に絡むのはやめろ。この僕が相手だ!」


 金髪の可愛らしい出で立ちのターヤにそう言われ、男達は薄ら笑いを浮かべた。


「お嬢さんが?相手?なってもらいたいなあ。ボクたち」

「あの豚野郎ども!」


 その様子を見たロセがターヤの元へ駆けつけようとする。しかし、ロセの助けは必要がなかった。


「あちっつ、あちちち」


 ふいに男達の履いている靴が燃え始めた。


「なんだこれ?助けてくれ~~」


 男達は悲鳴を上げながら、走り去る。


「もう大丈夫ですよ」


 茫然とする女性にターヤはにっこりと笑いかけた。ロセは自分の見せ場がなくなり、幾分がっかりした様子でターヤに近づく。センはこうなることを予想していたので、ゆっくりと歩いて来ていた。


「あ、ありがとうございます。あなたもアルビーナ様と同様に不思議な力を使えるのですね」

「アルビーナ?あんた、アルビーナを知ってるのか?」

「…ええ」


 急に大声を出したロセに驚きながらも女性は頷いた。 






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