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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第1章 火の『神石』
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フォーグレンの神官10

 宮殿に入り、大神官はシュイグレンの姫君とその一行が使っている客殿に通された。それは王子不在でざわついている王宮から離れた場所に建てられている来客用の建物だった。観賞用に庭が造られ、噴水が軽やかな音を立てて水の花を咲かせていた。

 本日開く予定だった結婚式が取りやめになり、フォーグレンの王は詫びを兼ねてささやかな宴を開いていた。王子が不在の中、不謹慎とも言えたがシュイグレンの王族にフォーグレンの動揺を伝えないためにも王は王妃の反対を押し切り、開いた。

 姫君とその一行が不在のためか、客殿は静まり返り、大神官はほっとしてバルコニ―から宮殿全体を眺めていた。『神石』を守るため、大神官は神殿を離れることができなかった。最後に宮殿を訪れたのは上級神官だった十五年前だった。

 大神官は変わらない宮殿の様子に目を細めた後、オレンジ色と藍色が混ざり合う美しい空を見上げた。


「カネリ」


 ふいに長らく呼ばれていない自分の名前を呼ばれ、大神官――カネリは驚いて声の主を探した。現れたのは水の上級神官のネスだった。


「……ネスか。久しいな」


 カネリが珍しく驚いた様子でネスを見ると、ネスは微笑を向けた。

 ネスはカネリより十歳年上で、白髪を長く垂らし、水の神官特有の青色のズボンに銀色の上着が合わさった服を着ていた。その顔は細面で皺がより、老いを感じさせたが整った顔だった。ネスは現水の大神官の親友でその肩腕として水の神殿では力を奮っていた。


「お前がシュイグレンの姫君の警備に当たっているとはな」

「そうだ。久々の現役活動はたのしいぞ。ひさびさにお前の顔も見れてよかったしな」


 ネスがそう言ってカネリを見つめると、カネリは視線をそらして空を見上げた。


「……キィラは元気か?」

「ああ、相変わらず妙なものを発明しているがな」


 ネスはカネリの態度に首をすくめたが、同様に空を見上げるとそう返した。


「キィラは相変わらずだな」


 カネリは十五年前に会ったきりのキィラの変わらぬ様子を想像して苦笑した。


「ところで今回はお前のとこの神官がやらかしたようだな」


 ネスは口調をがらりと変えるとカネリにそう聞いた。カネリはその言葉に顔をしかめ、ネスを睨みつけた。


「わしの神官ではない。あれは神使人しんしとだ」

神使人しんしと?確かセンという神官が王子を誘拐したと聞いていたが」

「あれはセンではない」

「そうか、どっちにしても誘拐されたのはかわらない。しかも『神石』が目的か。やっかいだな」

「そうだな」


 カネリはネスにそれだけ答え、背を向けた。昔の友人とはいえ、火の神殿のことを水の神官に話すつもりはなかった。

 


⭐︎


「ミシノ!」


 空を飛んでいると声をかけられた。見下ろすとそれは神使人しんしとのデイだった。

 デイは真っ黒なコートを羽織りフードを深く被っていた。そして顔を覆い隠すためか、白い仮面を付けていた。ミシノはデイのことを五年近く知っているが、いつもそのような様相のため、その本当の姿をみたことはなかった。


「デイ、何か用?」


 ミシノはあからさまに嫌そうな顔をしたが、素直に地面に降り立った。力は一流でまともに争えば、痛手を追うことがわかっていた。


「お前、火の神使人しんしととつるんでいるな?」


 デイは灰色の冷たい目をミシノに向ける。

 

 アルビーナのことか。


 ミシノが答えずにいるとデイはミシノに近づいた。灰色の眼球が仮面の奥で気味悪く動き、ミシノは気色悪さを覚えた。美意識の高いミシノにとって醜いデイと共にいるのは苦痛だった。


「火の『神石』を狙っているらしいな。王子はどこにいる?」

「何のこと?」


 ミシノは惚けた笑いを浮かべ、そう答えた。


「……まあ、いい。初めからお前がまともに答えるなど期待していない。俺の力を甘くみるなよ。『神石』は俺がいただく」

「勝手にすれば?」


 ミシノが目を細くして、デイを見る。ふいに腕を掴まれ、ミシノはその凄まじい力に息を飲む。逃げられることも叶わず、ただデイを睨みつけた。


「俺はいつでもお前を殺せる。お前の相棒のあの女もな」


 デイはミシノにそう囁くと『神石』の青いかけらを使い、水弾を放った。するとミシノの体が水弾によって飛ばされ、岩にぶつかる。


「ゆっくり休んでな。俺が王子を奪い、『神石』もいただく。ついでにあの美味そうな女もな」


 デイは岩の側で動かないミシノに言葉を投げつけると、飛び上がった。

 薄れゆく意識の中でそれを聞いていたが、ミシノの体が石になったように重く、動けなかった。


 アルビーナ……。


 アルビーナの顔が浮かび、掴もうと手を伸ばしたが、ミシノの意識はそこで途切れた。

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