フォーグレンの神官116
「あ~、無駄な時間を浪費した!」
兵士と王子を叩きのめし、不機嫌そうな顔をしてミシノはそう言った。
ツゥリが逃げる姿が見えたが、兵士と王子に邪魔され後は追えなかった。
「ま、いいか。一人は捕まえたし……。アルビーナ!」
まだ気を失ったままのズウの姿をちらりと見て、ミシノは龍を戦っているアルビーナにところへ飛んだ。
「あら、ミシノちゃんじゃない。どこいってたのよ!」
ミシノはアルビーナの隣で剣を振るキリカの姿に一瞬唖然とする。
「ミシノ!」
アルビーナはそう叫ぶと、炎の壁を作り水の龍の白い炎を防いだ。
「ありがとう、アルビーナ」
ミシノは自分を守ってくれたアルビーナに微笑む。
「ミシノ!あのねずみ野郎は捕まえたの?」
「ごめん~」
龍の攻撃をさけながらのアルビーナの問いに、ミシノは舌をぺろりと出して謝る。
「まあ、いいわ。一人は捕まえたものね。あいつに聞けば」
「聞くって何?」
二人の会話にキリカが興味本位に口を挟む。
しかし、二人が答える間もなく、水の龍の炎が吐き出される。キリカの疑問は解決されないまま、戦闘が再開した。
「母上、父上。早くここからお逃げください!」
マオはマシラとリエナがいる塔に駆け昇り、乱暴に王室の扉を開く。しかし、部屋ががらんとしており、人影は見なかった。目を凝らすと王座の後ろの床に人が倒れているのが見えた。
「母上!!」
マオはそれがリエナだとわかり、慌てて駆け寄る。
「マオ……?」
抱き起こしたリエナが目をうっすらと開き、マオは安堵の息をつく。
「母上……。塔から退避してください。もう城はだめです」
「マオ、街はどうなの?民の避難は完了したの?」
「ほぼ完了しました。ロセ達の水の神官が戻ってきて、今龍と交戦中です」
「そう……よかったわ」
リエナはそう言うと、マオの手をとりゆっくりと立ち上がる。
「母上。父上は逃げたのですね?」
「……ええ」
マオの問いにリエナは目を閉じる。
妻として王妃として、マシラの側にずっといた。
情けない男だった。
しかし、王して最低限のことはするだろうと思っていた。
止めるリエナを気絶させ、マシラは逃げた。
「母上!ここは危険です。さあ、逃げましょう!」
マオは立ちすくむリエナにそう声をかけると、その腕を掴み、塔の王室を出る。
城は龍の襲撃に会い、崩壊しつつあった。
駆け降りる塔の窓から、龍と戦う者達の姿が見えた。
その中に、弟マギラを殺した元神官、ミシノの姿を見た気がした。
弟マギラが何をしたか、知っていた。
弟ではあったが、マオはマギラのしたことを許せなかった。
もし無事であれば、罪を解こう。
罰せられるのはミシノではない。
マギラだ。
塔の出口が見える。
マオはリエナの腕を掴み、塔を出ると龍を背を向け走り続けた。
「ゲイン!」
地面に激突したゲインを火の龍の炎が襲う。
ヤワンはゲインの前に立つと氷の壁を作り炎を防ぐ。
「火の神!」
無防備な龍の後頭部にロセが切りかかる。しかし龍はその尾を使い振り払った。ロセの体は空を飛び、建物の壁にぶつかる。
火の龍は急降下すると、氷の壁をつくるヤワンをその鋭い爪で襲った。
「くうううう!」
ヤワンの右腕が宙を舞う。血が飛び散る。
「ヤワン!」
ゲインはヤワンを抱き、その傷口を手を押さえると、龍から離れた。
「火の神!」
二人を追おうとした火の龍に、壊れた壁から立ち上がったロセが氷の矢をお見舞いする。
すでに水の神官は、ロセ、ヤワン、ゲインを残すまでになっていた。
「これ以上殺させるものか!火の神!」
ターヤの行方はわからない。
しかし、仲間を殺した火の神を許せなかった。
ロセは剣を握りしめると火の龍に切りかかった。