表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
118/133

フォーグレンの神官115

 小屋に戻ると、センが静かな寝息を立てて寝ていた。


 デイはセンに近づくと、かけらを取り出し、それを剣に変える。


 心臓を狙い、一気に刺せば絶命する。


 デイは心臓の辺りを狙うと剣を両手で握り締める。


 十七年前、三叉の鉾を使い、当時大神官だったルイを殺した。

 自分を神殿から追放した男、憎かった。


 だから殺したとき、何も感じなかった。


 きっと、センを殺しても何も感じないだろう。

 自分の体を醜く焼いた少女……。

 もし二十年前に何もなければ、自分はまた違う道を歩んでいたはずだ。


 シャレッドも死なずにすんだかもしれない……。


 窓からのオレンジ色の光が差し、剣に反射する。


「デイ……」


 ふいにそう声がした。

 センが自分を呼んだような気がした。

 デイは剣を握ったまま、センの顔を凝視する。


 美しい顔が苦痛にゆがんでいるのがわかった。


「デイ様!」


 そう再び、明確に自分を呼ぶ声が聞こえ、デイは剣を下ろした。


「命拾いしたな」


 デイはそうつぶやくと、剣をかけらの姿に変え、ベッドの上のセンに背を向けた。




 センは目を覚ました。

 小屋の窓からオレンジ色の光が入ってきていた。

 その明るさに目を細めながら、体を起こす。


 デイの薬はよく効いていた。

 開いた傷もふさがっているようだ。


 ぼそぼそと話し声が外から聞こえてきた。


 退廃した村に人などいるはずがなかった。


 センはかけらを掴むと外に出た。


 話し声がはデイとツゥリのものだった。

 センはゆっくりと二人に近づく。


「龍が?二頭か?」

「はい。あれはもう人の手に負えるものじゃありません。赤毛の女やミシノの奴がきてましたが、殺されるに決まってる」


 龍?赤毛の女?


 アルビーナが龍と戦ってる?

 どうしてだ?


 龍はターヤと融合したはずじゃ?

 意識がないのか?


 だからアルビーナともわからず?


 センは二人の会話に耳をすませる。


「面白いことになっているな。世界の破滅か。支配できない世界など滅びるのもいいかもな。俺はそれで満足だ」


 デイの言葉にツゥリは引きつった笑いを見せる。


「ラズナンやあのガキ……確かターヤと言う名だったな。その姿はあったのか?」

「…さあ。俺はただ水の龍と、火の龍の姿を見ただけで…。ああ、あの野郎達。ロセ、そしてヤワンの奴の姿が見ました!」


 街を走り抜け、逃げたツゥリは火の龍と戦うロセと水の神官の姿を横目で見ていた。


「ヤワンか。意外だな」


 デイは仮面の下の目を細めて、そうつぶやく。

 ヤワンはデイにとっても掴みずらい男だった。

 シュイグレンを守るために戻ってきていることは意外としか思えなかった。


「デイ様、お願いします。ズウがやつらに捕まりした。このままじゃ、あいつらと一緒に巻き添えを食って殺されてしまう」


 ツゥリはそう言うと、デイに頭を下げた。

 デイはその冷たい視線をツゥリに向ける。


 センは二人の会話を頭の中で整理していた。


 二頭の龍がどこかに現れたようだった。

 しかし、ラズナンとターヤの姿はない。


 二頭の龍は石から解放され、人々を襲っている……。


 センはそう想像した。


 それをアルビーナ達が止めようとしている。


 あの龍、二頭の龍相手に人間が立ち向かえるとは思わなかった。


 アルビーナ……。


 センは拳を握り締めると小走りでその場を去り、空に飛ぶ。

 そして北の方角の空が奇妙な色をしていることに気がついた。

 

 あそこか!


 じくじくと痛む背中の痛みに耐えながら、センは北の空を見つめた。


 今の自分が行っても、手助けにならないのはわかっていた。

 自分が行くことは自殺行為にしかならない。

 しかし、このまま、デイに側にいて飼われるような日々は嫌だった。

 あの指に触れられ、心地よいと思う自分に吐き気を覚えた。


 この命、龍にくれてやる。

 アルビーナの、ロセの盾になって、彼らの代わりに龍の炎を受けてやる。


 こんな命で誰かを救えるなら惜しくない。


 センは息を吐くと、北に向かって飛んだ。


 傷口が開くのがわかった。

 痛みで脂汗が額に浮かぶ。


 しかし、センは飛び続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ