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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
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フォーグレンの神官114

 カネリを筆頭に数名の火の神官が北に向かって飛んでいた。


 ケイラにフォーグレンに残る火の神官の招集を頼んだが、それを待つつもりはなかった。

 龍達はすでにシュイグレンに到着し、暴れているはずだった。


 少しでも被害を少なくしたい。

 少しでも多くの人を助けたい。


 カネリはその思いを胸に飛んでいた。




「ちょこまかと!」


 ツゥリは器用にアルビーナの攻撃を避けていた。

 『神石』のかけらをもたないツゥリなど、簡単に捕まえることができるはずだった。


「アルビーナ!」


 ミシノの鋭い声がかけられ、アルビーナは咄嗟に体を捻る。すると、今までいた場所にあった壁が凍りつくのがわかった。


「このぉ!」


 アルビーナはぎらりと頭上の龍を睨みつける。

 ツゥリの捕獲だけに集中できないのは、水の龍のせいでもあった。

 時折加えられる龍からの攻撃を避けながら、アルビーナはツゥリに鞭を振り下ろしていた。


「もう、頭にきたわ!ミシノ!ズウとツゥリの捕獲よろしく!あたしはあの龍を懲らしめてやるわ!」


 そう言うとアルビーナは龍に向かって飛びかかった。


「アルビーナ!!」


 水の龍相手ではアルビーナが歯が立たないのは目に見えていた。

 しかし、ミシノはため息をつくとズウに止めとばかり、峰打ちを食らわせた。そして逃げようとするツゥリを追った。


「今度はミシノか!ズウの奴はやられたんだな」


 ミシノに目線を向け、その後方に気を失ったズウの姿を見て、ツゥリは舌打ちをした。そして城門を抜け、森に紛れ込もうと走る。


「!」


 突然目の前に人が立ちふさがり、ツゥリははね飛ばされた。

 それは容貌の似た2人組で、1人は背が高くすらりとしており、もう一人は少し太めの男だった。その縮れた金髪に見覚えがあった。

 そしてツゥリはそれがマシラの息子達だと気づく。


「お前は!」


 王子達は目の前で尻もちをつき、ぼんやりと自分たちを見ている男が、神使人しんしとだと気付いた。そしてそれが自分達を牢屋に閉じ込めた2人組みのうちの一人だと認識し、視線を鋭くする。


「ツゥリ!」


 そう声がしてミシノが現われ、王子達は顔色を変えた。


「お前はミシノ!!なんでここにいるんだ!」


 ミシノはツゥリの側にいる王子達をみて、唇を噛んだ。ミシノにとって王子達の顔は自分が殺した男、第四王子マギラを思い出させ、嫌な気分を思い起こさせた。


「かわいい弟を殺して置きながら、のこのこと、城に現れるとは!」


 背の高い方の王子マカルが剣を抜く。


「兵士よ!!あの男を殺せ!」


 そして小太りの王子マキラが、龍のことで手がいっぱいのはずの兵士たちに、そう声をかけた。王子の命令とあり、数名の兵士達が集まる。


「まったく、本当に下等な人達だね」


 自分に向かって剣を構える王子達、そして兵士を見るとミシノはため息交じりにそうつぶやいた。



「水の龍が!ロセ、ここは頼む。私は城へ!」


 マオはそう言うと、主のいなくなった馬を見つけその背に飛び乗る。


「はっつ」


 マオは声をそうかけると、馬の腹部を踵で蹴る。するとマオを乗せた馬は破壊された建物の破片で混乱している道を城に向かって駆け出した。

 ロセは火の龍の攻撃をぎりぎりで交わしながら、マオの背中を見つめ、城の方へ眼をむけた。水の龍が城の辺りで暴れている姿が見えた。


「ロセちゃん、私も水の龍を、城の方の加勢にまわるわ。よろしく!」


 かけらを使うキリカはそう言うとマオを追って城に向かった。

 しかし、水の神官達は目線を城に向けただけで、動こうとはしなかった。

 水の神官にとって城の王族が死のうがどうでもいいことであった。

 大切なのは街を守ることだった。


 十数人の神官の力をもってでも、火の龍の力が弱まることはなかった。

 すでに水の神官の数名が命を落としていた。


 ロセは眼下に仲間の骸を見ろしながら顔を上げる。

 そして幾度なく繰り返した問いを口にする。


「火の神よ!ターヤはどこにいるんだ!」


 しかし龍が答えることはなかった。

 返事の代わりに返ってくるのはその炎と鋭い鉤爪による攻撃だった。


 街を守ること、人を守ること。

 ロセにとって、それは使命だと感じていた。


 しかし、自分にとって一番大事なのはターヤの行方を聞くこと、知ることであった。


「火の神!俺の質問に答えろ!」


 龍に飛び掛ったロセの剣が、その尾によって剣が弾かれる。

 そして炎が吐かれた。


「くそ!」

 舌打ちをして、落下する体をよじり、剣から元のかけらの姿に戻った石を掴もうとする。

 熱い炎が迫るのがわかった。

 ロセは反射的に目を閉じる。


「ロセ!」


 声と同時に熱い蒸気を感じる。

 地面に激突する前にロセはどうにか、かけらを掴むことができた。地面すれすれで止まったロセの目の前で、龍の炎が氷の壁によって防がれていた。ロセは火の龍の炎から自分を救った人物がヤワンだとわかり、意外そうに顔をゆがめる。


「これは貸しにしておく」


 ヤワンは目を細め、皮肉な笑みを浮かべてそう言った。


「貸しとか、あなたには返して欲しい借りがたくさんあるんですが!」


 ロセはヤワンにそう答えながら、逆さまになった体を元に戻す。


「そうだったかな」


 ヤワンは笑ったまま、剣を構えた。


「そうですよ!」


 ロセは振り下ろされた龍の尾を避けると、一気に龍に向かって飛ぶ。

 

「火の神!ターヤはどこにいるんだ!」


 そしてそう叫ぶと、剣を振り下ろした。


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