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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
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フォーグレンの神官111

「ターヤ……私のターヤ」


 優しく自分の髪を撫でる母タリザの声が聞こえた。

 優しい、優しい声。


「母さん……」


 幼いターヤはタリザの膝にのり、見上げる。


「ターヤ。ごめんね。でも私はあなたを産んだこと、後悔はしてないわ」

「母さん?」

 

 幼いころの微かな記憶……

 いつもは気丈な母が時折、泣いている姿を見たことがあった。

 それはいつも、空が曇り、雷が鳴り響く日だった。


 母はじっと空を見上げていた。


「母さん、何が見えるの?」


 悲しげなタリザにある日ターヤはそう聞いたことがあった。


「…あなたのお父さん…私の愛する人の姿が見える様な気がするの」


 そう答えるタリザにターヤはそれ以上聞くことはできなかった。

 タリザはターヤをぎゅっと抱きしめ、その銀色の髪を愛おしそうに撫でる。


「母さん…僕、父さんに会ったんだよ。でも父さんと戦わなければならなかった。僕は父さんを止めなきゃならなかったんだ」


「母さん?」


 自分を抱きしめていた母がその言葉を聞き、急に腕の力を弱めた気がした。


 ターヤは訝しげに顔を上げる。


「どうして?どうしてなの?」

「だって、父さんは多くの人を殺した。僕は止めなきゃいけない。だって僕は神官だもの」


 タリザはターヤの言葉を聞くとふと皮肉気な笑みを浮かべた。

 そしてその姿が変化する。


「水の女神!?」


 ターヤは慌てて水の女神から離れる。


「人間など下らない生き物。殺してしまえばいいものなの。ワタシに刃向うならあなたも殺すわ」

「!」


 水の女神はそう言うと、氷の剣を作り出す。そして振り上げた。


「ターヤ!」


 真っ赤な血しぶきが舞うのがわかった。

 暖かい感触がした。


「…と…ラズナン様!」


 自分を抱くのがラズナンなどわかり、ターヤを戸惑う。

 そしてその背中から血が止めどうことなく流れているのがわかり、声を震わした。


「ど…どうして?」

「ターヤ。われはお前の誕生を祝うことも、一緒に生きることもできなかった。しかし、タリザがお前を産んだことに感謝している」

「ふん。馬鹿馬鹿しいこと」


 水の女神は血の付いた剣を撫でると、再度剣を振り上げる。

 しゅっと音がした。

 そして、ターヤは意識を失った。

 意識を失う瞬間、力強く抱きしめられ、ラズナンの胸の鼓動が聞いた気がした。





「キリカさん?!」


 シュイグレンの街に辿りついたロセは、剣を振り回し龍と戦うキリカの姿を見て、驚きの声を上げた。


 伊達に大神官様の弟じゃないな…


 ロセはそんなことを思いながら、火の龍に向かって飛ぶ。

 そして、その前に降り立つと龍をにらみつけた。


 ネスから龍の側にはターヤやラズナンの姿が確認できなかったことを聞かされた。

 ネス曰く、火の神も水の女神も石から解放され、己の意思で動いていると可能性が高いということだった。


 確かに目の前の火の龍は元来の紅蓮色に戻っており、ターヤと融合して際に黄金に光っていた姿とは異なっていた。


 だったら、融合がとけた後のターヤはどこにいったんだ?

 

「ロセちゃん?!なにぼーっとしてるのよ。兄さんは?ネスは?」


 ぼーとしているロセの姿を見て、キリカが怒鳴りつける。


「大神官様は今……こっちに向かっているところです。俺たちが先に来ました」


 ロセは兄思いのキリカにすこしだけ嘘をつくと、龍を睨みつける。

 龍達はロセに構うことなく、街を襲い続けている。


「火の神よ!」


 ロセは飛び上がると、火の龍の顔に近づく。


「馬鹿!何してるの!」

「火の神よ。ターヤはどこにいるんだ!」


 キリカの止める声も聞かず、ロセはそうたずねた。火の龍はあざ笑うかのように咆哮を上げると炎を吐いた。


「ロセ!」


 キリカは氷の壁を作ると炎からロセを守る。


「ありがとうございます」


 ロセはキリカにそうお礼を言うと、龍に再び向き合った。


「やっぱり、ターヤはあんたの中にいないみたいだな!」

「どういう事?」


 キリカはロセの言葉に疑問をもって、そう口にする。しかし間髪いれず炎に襲われ、その疑問を解くことができなかった。



 ロセは火の龍が自分に躊躇なく攻撃したことで龍の中にターヤがいないこと、融合が解けていることに確信を持った。

 

 火の神にどうやってでもターヤの行方を聞いてやる!


「火の神!俺の質問に答えろ!」


 ロセは剣を構えるとそう叫びながら龍に切りかかった。



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