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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
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フォーグレンの神官109

 シュイグレンの街ではマシラが王に戻り、兵士達がフォーグレンに出兵中にも関わらず、いつもどおりの賑わっていた。

 広場には露店が店を連ね、子供連れや人々が珍しいものを求めて集まっていた。


 ふいに龍の咆哮が聞こえ、人々は空を見上げた。そして空に浮かぶ、2頭の龍の姿をみて、人々は悲鳴をあげ、逃げ始める。

 ラズナンが現われた際に水の龍に凍づけにされ、殺された人々の噂は広まっており、龍は人々にとって畏怖の存在でしかなくなっていた。


「逃げるぞ。殺されるぞ!」


 女、子供に構わず人々が混乱して逃げ惑う。その姿を嘲笑するように水の龍が咆哮を上げた。

 そして白い炎を吐き出す。


「うわああああ!!」


 数人の人々が一瞬で凍りつく。

 別の場所では火の龍の炎を浴び、断末魔の叫びを上げ、燃え上がる人々がいた。


 広場の光景は龍の出現で一変した。午後の賑やかな光景は惨状と化し、物が地面に散乱し、龍によって引き裂かれた人の肉片、血が飛び散っていた。




「王!街に龍が現われました!」

「何!」


 マシラは警備兵からそう報告を受け、声を荒げた。そしてラズナンが城を支配した際に、塔に作られた王室の窓から街の様子を窺う。

 二頭の龍が暴れる姿を見て、マシラの顔が青ざめる。


「王!」


 マシラの隣にいた王妃リエナはマシラの腕を掴んだ。


「……逃げるしかない。シュイグレンは終わりだ…」

「王!」


 震える声でそう言い、窓から後ずさるマシラをしかるようにリエナがそう呼ぶ。しかし、ぶるぶると震えた始めたマシラは奇妙な悲鳴を上げると、リエナの腕を振り払った。


「私は知らぬ。知らぬぞ!」

「王!」


 部屋から逃げ出そうとするマシラにリエナは声を荒げる。警備兵はそんな王の醜態に唖然としていた。


 不意にばたんと扉が乱暴に開かれ、マオが王室に入ってくる。


「マ……オ」


 マシラは口をぱくぱくさせて、自分の息子を見つめる。

 マオはマシラに一度頭を下げた後、母リエナに声をかけた。


「王妃。水の神殿が崩壊している今、城にいる兵士のみでシュイグレンの民を守る必要があります。民を守りつつ、避難を優先すべきだと思いますが……」

「マオ……」

「第一王子マオ。王妃としてあなたの提案を採択します。あなたが指揮を取り、兵士を街に派遣するのです」

「リエナ……お前は何の権利があって……」

「王よ。王が不在、もしくは正常な状態ではない場合、王妃である私に決定権があることお忘れですか?」

「……リエナ……」

「マオ、さあ、急ぐのです。出来るだけ民の被害を最小限に食い止めるのです。そのうち、キィラ達が戻ってくるはずです」

「はい。王妃。仰せのままに」


 マオは母リエナに深々と頭を下げると部屋を後にする。警備兵は慌ててマオの後を追う。マシラに政治的能力がないのは確かだった。街には家族がいる。警備兵はマオの傘下の元、共に戦うつもりだった。


「さあ、王よ。私と一緒に部屋に残ってもらいますよ。街から民がすべて避難終わるまではここを動いてはなりませぬ。わかりましたね?」


 いつもと違う気迫のリエナにマシラはうなずくしかなかった。




「なんだと、ならぬ。私は反対です」


 王室に火の神官と共に現われたティアナにフォーグレンの王太子ハルンが声を荒げる。


「自業自得としか思えぬこと。フォーグレンが関わる必要はありません」


 カネリに、火の神官ケイラはフォーグレンにいる他の火の神官を連れてくるように命じられた。フォーグレンに飛び立とうとしたときに声をかけたのがティアナだった。

 王にシュイグレンの王族として頼みたいとティアナはケイラに請うた。ケイラはティアナの願いを聞き、王室に連れて来た。


「だいたい、その姫も。どうやって城から逃げ出したんだ!」


 王は王座に腰掛けたまま、ハルンの言葉を聞きていた。そして視線を頭を垂れたティアナに向けていた。


「父上!兄上!」


 ふいにそう声がして、王室の扉が開く。現われたのはハーヴィンだった。


「ハーヴィン様……」


 ティアナは眩しそうにハーヴィンを見つめた。

 重症を負わされたと聞いており、内心心配していた。

 顔色は悪いが無事な姿を見て、ティアナはほっと胸をなでおろす。


「ハーヴィン、何用だ。お前は静かに寝ておけ」


 ハルンが苛立ちを隠さずそう言う。


「兄上。ティアナ姫を城の外に逃がしたのは私です。そして、私はティアナ姫のために、火の神官をシュイグレンに派遣すべきだと思っております」

「ハーヴィン!お前は!」

「兄上!お願いです。これはシュイグレンの問題だけではありません。シュイグレンを破壊し尽くした龍が、次にすることは何だと思いますか?フォーグレンを襲撃することに間違いありません。フォーグレンが襲われる前に、シュイグレンで龍達を叩くことが最案だと思いませんか?」

「……なるほど。そういうことか」

「父上!?」


 ハルンはハーヴィンの言葉に頷く王を訝しげに見た。

 王はハーヴィンの提案に納得していた。シュイグレンの兵士はこの南の大陸で足止めされている。シュイグレンに戻るのはまだ相当時間がかかりそうだった。そして戻った時はすでに遅く、龍に街を破壊された後に違いなかった。シュイグレンを破壊した龍がフォーグレンを襲った場合、甚大な被害は免れない。その上逆恨みをしたシュイグレンの兵士に襲われた場合を考えると、ハーヴィンの提案はもっともだった。


「ハルン。わしは無傷の火の神官をシュイグレンに派遣することを許可するぞ。姫よ。先ほどの戦で疲れただろう。あなたはわしの城で休むがよい。いいな、ハルン」


 ハルンは悔しげな表情を浮かべたが、黙ってうなずいた。


「王よ。感謝します」


 ティアナは王に深々と頭を下げる。


「ケイラといったな。火の神官を集めるがよい。そしてシュイグレンにすぐに向かうのだ!」

「はい」


 ケイラはそう返事をし、頭を下げると王に背を向けた。


「ハーヴィン。部屋に戻る前に姫を部屋にお送りしろ。わかったな」

「かしこまりました。父上」


 ハーヴィンは微笑みを王に向けると、ティアナに近づく。

 そしてその腕を取り、王室を後にした。


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