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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
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フォーグレンの神官107

「龍たちがシュイグレンへ?」


 目覚めたネスは全身に重度の傷を追っており、ベッドから体を起こすことができないくらいだった。隣のベッドには同じく満身創痍のキィラが意識の戻らないままで寝ていた。

 ネスから龍に襲われ、その龍達がシュイグレンに向かったと聞き、ミシノは顔色を変えた。


「アルビーナが!」


 ミシノはそう言うとベッドのネスに背を向け走り出す。


「ミシノ!」


 ロセはミシノを追って船室を出ていく。

 そして甲板に出た時、ミシノが体を強張らせて、何かを見ている姿が見えた。

 ロセがミシノの視線を追って、目を向けると、そこにヤワンを筆頭とする水の神官が構えをとっているがわかった。

 混乱に乗じて、縄をほどき、船室から脱出したようだった。火の神官たちはいつでも攻撃を放てるように水の神官を包囲している。


「先輩方、シュイグレンが滅ぼされようとしているのに、ここで僕達と戦うつもりですか?」


 ミシノが皮肉な笑みを湛えてそう聞いた。


「ミシノ……。俺達はお前達と戦うつもりはない。お前達もシュイグレンに戻るんだろう?俺達もシュイグレンに戻り、一緒に龍と戦うつもりだ」


 言葉を発しないヤワンの代わりにゲインが一歩前に出てそう言った。


「僕は信じられないな」


 戦場で如何に水の神官が戦っていたのかをミシノは覚えていた。そう簡単に自分たちの味方となるはずがなかった。


「シュイグレンにはお前も知っての通り、親も、友人もいる。俺達は家族を、友を守りたいんだ!」


 ゲインはじっとミシノを見つめてそう言葉を続けた。


「ふん」


 ミシノは時間の無駄だとばかり、空に飛び上がる。

 しかし、ロセはミシノの後を追わなかった。


「ゲイン先輩、その言葉本当ですか?」


 ロセは甲板から降りるとゲインに近づく。


「……ロセ!」


 ミシノは舌打ちをすると、ロセの側に降り立った。


 ゲイン達にロセを殺されるかもしれない。


 そう思うと、ロセを置いて龍を追うことはできなかった。

 ミシノはロセの隣でゲインを睨みつける。


「ロセ……本当だ。俺の言葉に嘘はない。シュイグレンは俺達の故郷だ。家族と友を守りたい」

「……わかりました。俺はあなたを信じます」

「ロセ!」

「ミシノ。俺はゲイン先輩の言葉は嘘だとは思えない。シュイグレンは俺達の国だ。家族も友達もいる。それを守りたいという仲間の言葉を信じるつもりだ」

「……ロセ!」


 ミシノはため息をわざと大きく漏らす。


 ロセは騙されやすい。

 裏切る者は何度でも裏切る。


 ミシノは厳しい視線を緩めなかった。そして、水の神官の裏切りを促した張本人のヤワンに目を向けた。ヤワンは水の神官達の後ろで先ほどから言葉を発せず岩に腰掛け、状況を見ていた。


「ヤワン先輩、あなたもゲイン先輩と同じようにシュイグレンに戻るつもりですか?」


 ミシノの問いにヤワンは顔を上げる。そして立ち上がるとロセとミシノに近づいた。


「ああ、俺もいく。俺の家族もシュイグレンにいるからな」


 ヤワンは苦笑しながらそうミシノに答えた。

 ミシノはヤワンをじっと睨みつける。ロセはその隣で何を考えたか、ふいに手を差し出した。


「ロセ!」


 戸惑うミシノを遮り、ロセは口を開く。


「ヤワン先輩、一緒に戦いましょう」


 ヤワンはその言葉に微笑みを浮かべるとロセの手を握り返した。ロセはヤワンを見つめるとその手を引き、その顔に自分の顔を寄せる。


「ヤワン先輩、もし今度裏切るようなことがあったら、今度こそあなたを殺します。覚えておいてください」


 ロセの囁きはヤワンにしか聞こえないものだった。ヤワンは一瞬驚いたような顔を見せると、口を歪めた。


「わかってるさ」


 そしてそう言うとロセの胸を押して、その手を離した。


「ヤワン先輩!」


 バランスを崩したロセを受け止め、ミシノはヤワンを睨みつけた。


 掴みどころのない男だった。

 ミシノはロセがヤワンを仲間として再び認めることが信じられなかった。


「さあ、ロセ。行くよ!」


 ヤワンを睨みながらも、ミシノがそう声をかける。

 

「さあ、先輩方、行きましょう」


 ロセはそう言うと空に飛び上がる。ミシノがロセの後方を守るようにその後ろの続く。

 火の神官が警戒の目で見つめる中、次々と水の神官が空に飛び立っていく。

 

 ミシノはヤワンに警戒しながら、ロセの側を飛んでいた。

 しかし、脳裏に浮かぶのは愛しい恋人のアルビーナだった。

 

 アルビーナ。

 お願いだから無茶はしないで。


 ミシノはそう願いながら、視線のずっと先にいるはずのアルビーナのことを想った。

 

 

 

 

 カネリはミルと他の者の遺体を土に埋めていた。

 このまま乾いた大地に置き去りにするのは耐え難かった。


 ふいに頭上を唸るような音がして、十数人の者が空を飛んでいくのが見えた。

 その中に見知った顔を見て、カネリは目を細める。


 そして飛んできた方向に視線を向け、そこに数百隻の船が止まっている姿を見つけた。



 ☆



「!」


 空を猛スピードで飛んでいると不意に生暖かい風が吹いたよう気がした。

 アルビーナが反射的に体を捻ると、炎が体をすれすれを掠る。


「何なのよ!」


 宙で浮いたまま、振り返るとアルビーナをあざ笑うかのように今度は白い炎が飛んできた。


「!」


 アルビーナは慌てて、炎の壁を作りそれを防いだ。

しかし間髪いれず、火の龍の尾っぽが飛んできて、アルビーナの体を捉える。そしてその体は地面に叩きつけられた。


「このっつ!」


 アルビーナは歯を食いしばり、起き上がろうと試みる。

 しかし、仰向けに体をひねるのが精一杯だった。

 霞んでいく視界の中で、龍達が小さくなっていくのが見える。


 このぉ!


 手を伸ばそうをするが、アルビーナはそのまま意識を失った。



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