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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第1章 火の『神石』
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フォーグレンの神官8

「見て、セン。ハーヴィン王子って想像以上にハンサムじゃない?」


 現王の第二王子のハーヴィンの家庭教師兼警護に当たる神官を選ぶために、今日は選考会が開かれていた。

 これは同時に次期大神官を選ぶための基準にもなり、宮殿に集まった上級神官は皆緊張の面持ちだった。

 センとアルビーナは同期の神官で、上級神官になってまだ一年だった。通常であれば宮殿に派遣するには経験が浅い二人は、選考会に出られないはずだった。しかし、大神官が二人の力量を勝って他の上級神官と共に選考会に連れて来ていた。


「セン。綺麗な顔だからって王子を誘惑するなよな」


 センより五歳年上の上級神官のカルは皮肉気にそう言った。センは八歳のときに娼婦の母に連れられて入殿した。基本的に裕福な子供達が多かった神官見習い達はこぞってセンを見下した。それから十八年経った今でもこうやってセンに嫌味を言う神官は後を絶たなかった。


「うるさいわね。カル。そういうあんたこそ。なんで今日は似合わない化粧なんかしてるのよ!」

「化粧?私がするわけないだろう?」


 アルビーナにそう言われ、カルは慌てて顔を隠すようにすると皆が集まる場所へ走って逃げた。


「本当、カルはしょうがないわね。自分が醜いからってさあ。セン、気にしたらだめよ。 どうせ力もない神官の妬みなんだから」


 アルビーナはカルが混ざった神官たちの集団を睨みつけると鼻を鳴らした。


「さあ。選ばれるのはあたしとセンのどちらかよ。手加減しないでよ」

「……もちろんだよ」


 センはアルビーナの笑顔を眩しそうに見ながらそう答えた。



 口頭試験が終わって裏庭でぼんやりしていると遠くから男が歩いてくるのが見えた。それがハーヴィン王子だとわかると、センは慌てて立ち上がり、頭を下げた。


 なんでこんなところに。

 ここは誰も来ないはずの場所だった。


「君の名はセンだろう?」


 ハーヴィンは穏やかな笑顔を浮かべてそう聞いた。


「そうです」


 センは自分の名前を聞く王子に疑問に持ちながらも、頭を下げたままそう答えた。


「顔をあげて」


 ハーヴィンの言葉にセンが顔を上げると、ハーヴィンはじっとセンの顔を見つめていた。センはその視線が熱く、いたたまれなくなって顔を再び下に向けた。自分の顔が赤くなっているのがわかった。


「君の瞳は夜空のように深い。しかし瞳には夜空の星のようなたくさんの輝きが見える。それはまるで黒曜石のようだ」

「?」


 言葉の意味がわからず、センは顔を再び上げた。そして目が合った瞬間、ハーヴィンの瞳が自分を捕らえるのがわかった。センはその熱い視線に束縛されるような錯覚を覚え、胸が苦しくなった。


「セン……」


 ハーヴィンがそう呼び、センに向かって足を踏み出した。


「セン?殿下?」


 そう声がして、木の陰から不思議そうな顔をしたアルビーナが現れた。

 センは何もやましいことはしていないのに、居た堪れない気持ちになる。


「えっと君は確か……」

「アルビーナです。殿下」

「そうか。アルビーナか。いくつか追加質問があったから、このセンに聞いていたんだ。次は実地試験だ。がんばって」


 ハーヴィンはそう言うと、アルビーナの側を抜け、試験会場の方へ歩いて行った。


「セン?」


 アルビーナは不思議に思いながら深く考えず、センを見た。するとセンがほっとした表情でアルビーナに笑いかけた。


「皆さん、集まってください。時間です」


 試験官の声がそう聞こえ、二人はそれ以上何も話すことなく、会場へ戻った。

 

 実地試験が終わり、その日のうちに結果が発表された。

 選ばれたのはセンだった。


「おめでとう!」


 アルビーナは笑顔でそう言ってセンの肩を叩いた。


「あ、ありがとう」

「あー来月からセンは宮殿か。寂しくなるわ~」

「……」


 センはアルビーナの言葉を黙って聞いていた。

 口頭試験が終わったときに会ったハーヴィンの姿が忘れられなかった。

 力ではアルビーナの方が上であることはセンにはわかっていた。


 なのに自分が選ばれた……。

 なにか操作されている気がしていた。


「今日はお祝いね!あんたが好きな桃と蜜柑の甘いスープ買ってきてあげるわ」

「アルビーナ……」

「そんな暗い顔しないの。待っててね。すぐ戻ってくるから」


 宮殿から戻ってきたばかりなのに、アルビーナは微笑むとセンに背を向けて歩き出した。


 センはアルビーナの背中を見送ると、ため息をついた。

 そして、あることを思い立ち、大神官のもとへ急いだ。




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