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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
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フォーグレンの神官104

「ロセ!しっかりしなよ」


 ミシノはフォーグレンの宮殿の中庭の、離れたところでぼんやりと座りこむロセを叱咤した。


 戦いが終わり、シュイグレンの軍勢はキィラ、ネスそしてティアナと共にシュイグレンに向けて出発した。

 アルビーナはセンを連れて逃げたデイの後を追うために、単独でシュイグレンに向かって飛び立った。兵士と共に帰るといつ帰りつくかわからないので、単独で行動することを決めたのだ。

 ミシノはアルビーナの言葉もあり、ロセについてフォーグレンに残っていた。


 宮殿の庭には負傷した神官と兵士たちが溢れかえり、街から呼び出された医師たちが動きまわっていた。そして無傷の火の神官が薬草を持ちより、その手助けをしていた。

 

 センにより怪我を負わされたハーヴィンはキィラの治療もあり、命を取り留めた。今は命の危険が少ないということで宮廷医師がその側について看護している。


「まったく、ふ抜けになっちゃって。まだ死んだとは決まってないんだろう?『神石』のかけらが力を持っているということはまだ、火の神と水の女神が生きてるってことだよ。だから、元気だしなよ」

「……それは本当か!」

「……多分。だって、火の神と水の女神が存在しないなら、力も使えないはずだろう?でもこうやって今だに力が使える」


 ミシノはそう言いながら『神石』のかけらを剣に変え、くるくると手の中で玩んだ。


「だったら、ターヤも生きてるってことだよな!」

「そうだよ。きっと」

「じゃ、俺、探してくる!」


 ロセは嬉しそうにミシノに笑いかけると、立ち上がった。そして勢いよく、宮殿の上空に飛び上がる。


「ロセ!待ちなよ。探すってあてはあるの?」


 ロセはミシノの言葉を待たず、先ほどまで戦いが繰り広げられていた場所へ飛んだ。


「まったく」


 ミシノはため息をつくとその後を追った。




 数百隻ものの船がゆっくりと空を飛んでいる。

 ネスとキィラ、そしてミルを筆頭とする数十人の火の神官がそれぞれの『神石』の力を使い、船を飛ばしている。

 陸路も考えたが、数千もの兵が南の大陸を移動して動くのは得策じゃないと考え、来たときと同じような空路を取ることにした。ネスとキィラの2人だけでは力に限界がある。したがってカネリがフォーグレンの王に直訴して、火の神官をシュイグレンのために貸し出していた。


「ネス様、何かが飛んできます!」


 後方の船を飛ばすミルの声がしたかと思うと、船が燃え上がる。


「ミル!」


 火の塊となった船は人々の悲鳴と共に落下する。


「火の龍……」

「水の龍……」


 煙の中から船隊の後方に現われた二頭の龍を見て、ネスとキィラが愕然とつぶやいた。

 しかし、同時にキィラが火の神官達に命を下す。


「船を地面に降ろしてください!このままでは標的になります!」


 キィラの声がそうして、船が次々と下降し始める。 


「キィラ。船を頼む!」


 ネスはそう言うと船を襲おうとする龍の前に立ちふさがる。


「ネス!」


 その背中をキィラが一瞬だけ見つめると、船隊に視線を戻した。


「さあ、急いでください!」


 水の龍があざ笑うかのように咆哮をあげた。

 そして白い炎を吐く。

 ネスは氷の壁を作りそれを防いだ。

 しかし、火の龍が容赦なく襲い掛かる。


「くっつ」


 腕を深く鉤爪にえぐられ、血が飛び散る。ネスは反射的に傷口を押さえた。


「ネス!」


 キィラは片手で船を操りながら、もう片方の手をネスに向ける。そして消えた氷の壁を補強した。白い炎がネスの直前で壁に阻まれて砕ける。


「キィラ、悪いな」


 ネスは歯を食いしばると、再度振り下ろされた火の龍の鉤爪を剣で受け止めた。


「火の神官の皆さん、ここはお願いします!」


 船がすべて地面に着陸したのを確認して、キィラは空に飛び上がる。

 

 親友であるネスを見殺しにするつもりはなかった。

 なぜ消えたはずの龍が再び現われ、自分達を襲うのがキィラにわからなかった。

 ただわかるのは龍から親友を、人々を守ることだけだった。



「大神官様?」


 ふと兵士の傷口に薬草を当てたまま、空を見上げるカネリを見て、リナは声をかけた。


「リナ、すまぬ。ここを頼む」


 カネリは側で自分の手伝いをしていたリナにそう言うと、立ち上がった。そしてリナの返事も聞かず、空に飛び上がる。


「大神官様……?」


 リナはいつもと違ったカネリの様子を訝しく思いながらも、言われた通り兵士の手当てを続けた。


 空が赤く染まる。光の加減とも考えられた。

 それが豪雨の前の雷雲だと……。


 しかしカナリは遠くの空の微かな異変に嫌な予感を覚えた。 


 胸を押さえながら、カネリは速度を限界まで上げて空を飛ぶ。


 気のせいであってくれ。

 

 ネス……キィラ……。

  

 カネリはざわざわする胸を押さえながら、空を飛ぶ船隊を目指して飛び続けた。



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