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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
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フォーグレンの神官102

「ターヤ」


 そう声がして、ターヤは目を開いた。そしてそこにいるのがラズナンだとわかり、慌てて体を起こす。


「ターヤ。そう構えるではない。われはお前に危害を加えるつもりはない」


 ラズナンは微笑みかけると、立ち上がった。

 ターヤは警戒しながらも同じように立ち上がる。体中がぎしぎしと痛んだが外傷はなかった。見渡すと森の中にいるのがわかった。

 森には色鮮やかな花が咲き乱れ、幻想的な光景だった。

 ターヤはまだ自分が夢の中にいるような気持ちになった。


「ここは?」


 さっきのは夢だったのか?

 それともまだ夢の中なのか?

 ニーシャ……土の神……。


 ターヤは顔を上げ、ラズナンに視線を向けた。


「ターヤ。タリザは生きているのか?」


 ふいにそう聞かれてターヤはぎくりと体をこわばらせる。

 そんなこと聞かれるとは思わなかった。


「……いいえ、十年前に亡くなりました」


 ターヤはどう反応していいかわからず、俯いてそう答える。


われは結局タリザを救えなかったんだな。タリザを想い、われは行動を起した。しかしタリザどころか、誰も救えぬかった。ただ多くの犠牲を出した」


 ラズナンは唇を噛みしめ、そうつぶやいた。


「……ラズナン様、失ったものを取り戻すことはできません。今回の戦いでも多くのものが亡くなりました。僕たちは神の力をぶつけてすべてを終わらせたはずです。それなのになぜ僕たちはまだ生きているのですか?」


 ターヤは冷静に振舞おうと、震える声をどうにか落ちつけそう言葉を紡ぐ。


 甘えをみせるわけにはいかなかった。

 自分は過ちによって生まれた子供、ラズナンの子供はティアナ一人。

 自分はタリザの娘で火の神官……。

 ターヤは自分にそう言い聞かせた。

 


「それはわれも知らぬこと。目覚めるとお前とここにいた。心がないとは言え、今まで起きたことはすべて覚えている」


 ラズナンはそう答えると眉をひそめ、空を見上げる。


「起きたわね。人間よ」


 不意に甲高い声がそう聞こえて、美しい女性が舞い降りた。銀色の長髪に青い瞳、人間とはことなる青白い肌、ターヤとラズナンはそれが水の女神であることを悟った。


「ターヤ。起きたんだな」


 もう一声、聞き慣れた声がして水の女神の隣に赤毛の美青年が降り立った。ロセに似た青年はターヤが何度も見ている火の神だ。


「ターヤ、契約は無効にしてやる。お前のおかげでワタシたちは自由になった。契約などもはや必要ない。これで思う存分、人間界で暴れることができる。土をたぶらかせた人間などに用はない。すべてを燃やし尽くしてやるつもりだ」

「火の神!?」


 ターヤは火の神の言葉が信じられなかった。火の神は自分の味方のはずだった。

 それが人間に危害を加えようとしているのが信じられなかった。


「火の神よ。どういう意味なのだ?人間界を燃やす尽くす?そんなことわれがさせぬ!」

「ふっつ」


 ラズナンの言葉に水の女神が微笑んだ。そして息をラズナンに吹きかける。


「ラズナン様!」


 ターヤの目の前でラズナンが一瞬で凍りつく。


「なんてことを!氷を溶かして!」

「神に向かって小ざかしいことをいうからよ。本当、石から解放されて、心まで男に戻るとは思いもしなかったわ。人間界をワタシたちが破壊しつくすまで、そこでおとなしくしていなさい」

「火の神!お願い!ラズナン様を元に戻して!」

「ターヤ。安心しろ。そいつは死んではいない。時期に氷も溶けるだろう。ワタシはお前を気に入っている。だからお前とその男だけは助けるつもりだ。神の世界で暮らすがよい」

「火の神!」

「火、早く行きましょう。ラズナンを使って人間界をめちゃくちゃにしてやろうと思ったけれども、もういいわ。火とワタシの力で人間界など早く破壊してしまいましょう」

「そんなこと、僕が許さない!」

「あなたに指図される覚えはないわ」

「水!」


 水の女神は火の神の静止を聞かず、ターヤに息を吹きかける。するとターヤの体がタズナンと同じように一瞬で凍りついた。


「水!」

「大丈夫。一日もすれば氷は溶けるわ。そのころは人間界なんてすでになくなっているから、うるさく言わないはずよ。ちょうどいいじゃないの」

「水……」

「火!見てよ、この子。よく見たら土に似てるわ。だてに土の子孫ではないわね。人間界の破壊が終わったら、この子と遊ぶのが楽しみだわ。きっと、面白いことになるわね」


 火の神は水の女神の言葉にため息をつく。しかし、目を閉じると紅蓮の龍の姿に変化した。水の女神は紅蓮の龍を目を細めて見た後、宙に飛び上がる。そして同時に銀の龍に姿を変える。

 火の龍は咆哮を上げると水の龍を追う。そして二頭の龍は競うように空高く上ると、姿を消した。


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