表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第7章 最後の戦い
104/133

フォーグレンの神官101

「土!聞いているの?」

「……なに?」

「人間界におりるぞ!」


 火の神の声がして、ターヤはふわりと浮遊感を覚える。

 両脇を固めるのは火の神、水の女神であった。


 どうなってるんだ?


 ターヤは目をぱちくりさせて、両脇の2人を見る。抵抗をしてみるが体は自分のものではないように自由が利かなかった。


 なんなんだ?

 僕はいったい?

 ここはどこだ?


 記憶に残っているのは火の神と同化したこと、そして虹色の龍を襲い、空に昇ったことだった。


「さあ、今日は誰の心を食べようかしら」


 地面に降り立った水の女神は嬉しそうにそう言うと、人間の姿に化ける。


「どうせ、今日も下らん人間の男の心を食べるんだろうが。何がおいしいのやら」

「火、あなたも食べて見たら?美しい心がどんなに美味がわかる?そして心を失った人間が何をするか、楽しくてたまらないわ~」


「……下らん趣味だな。ワタシは山でも焼いてこようかな。本当は村すべてを焼いて人間が逃げ惑う姿を見るのが楽しんだがな」

「やめてよ!ボクの人間を無暗に殺さないで!」


 ターヤの意志に反して、口からそんな言葉が発せられる。

 

 なんだ?

 この体は僕のじゃないのか?

 人間界っていったい、どこなんだ?


 ターヤの疑問は誰に投げかけられることもなく、場面は変わっていく。


 ターヤは山のほとりに一人で残された。

 火の神は山の方へ消え、水の女神は人間の姿になったまま、山の麓の村に降りていった。


「まったく、なんで兄さん達は、あーなんだ」


 自分の体のはずなのに、まったく自由の聞かない口はそう言葉を漏らす。そして腰を降ろすのがわかった。

 ふと近くにある滝壺から水音がした。ターヤの視線が滝壺にむけられる。そして近づくと、十五歳くらいの少年の姿が見えた。


「あんたは誰?!」


 少年は青い目をターヤに向け、警戒した様子を見せる。


「ボクは……」


 ターヤの口はそう言い淀むと、慌てて人間の姿に変化する。


「……村の奴じゃないな。誰だ?」


 少年は目を瞬きさせた後、ターヤの顔を凝視してそう聞いた。相手が人間だとわかったせいか、少年の声が幾分柔らかくなっていた。


「ボク……ワタシはニーシャ。兄たちと遠いところから来たんだ」

「ふうん、そうか。この辺はあぶないぞ。女の子が一人で歩きまわるとこじゃない。俺がお前の兄のところまで送ってやる」


 少年は釣り糸を滝壺から上げると、ターヤにそう言った。




 ターヤは時間が経つにつれ、自分が火の神と水の女神の妹の土の神の中にいることがわかった。しかし、時代がいつなのか、どうして自分が土の神の中にいるかは分からなかった。土の神の体はターヤの意志をまったく解せず、ターヤはただ土の神の目線で場面を追っている感じだった。


 土の神は滝壺で会った少年に興味を持ち、たびたび人間に化けては少年に会いに行っていた。



 数年が経ち、少年――ウィルは少年ではなくなった。


「ニーシャ」


 二十歳になりすっかりと大人になったウィルは背がすらりと伸び、顔も幼さが抜け精悍な顔をしていた。


 ターヤは心臓がどきどきするのがわかった。土の神、ニーシャがウィルに恋しているのを感じた。


「なに?」


 ニーシャはウィルに笑顔を向けてそう聞いた。


「……なんでもない。次はいつ来る?」

「……うーん。秋に入って、寒くならないうちにまた来るよ」


 ニーシャはウィルの戸惑った様子に気づかないようで、そう楽しげに答えた。


 ターヤはニーシャの中で、ウィルの戸惑いを感じていた。自分の成長とは異なり数年経っても様子が変わらないニーシャ、疑問が湧いてもおかしくなかった。

 ターヤはニーシャの恋する気持ちを感じていた。しかし、ウィルに対しては、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。


「ウィル!」


 数ヵ月後、上空からウィルの様子を見ていたニーシャは、村同士の争いでウィルが傷つくのを見過ごせなかった。火の神が止めるのを聞かず、力を使った。


 ウィルは土の壁が矢から自分を守るのをみて、ニーシャに抱いていた疑惑を確信に変えた。


 数日後、ニーシャはウィルに会いに行った。


「ニーシャ、話してくれ」


 ウィルはニーシャに会ったとたん、その青い瞳を煌めかせてそう言った。

 ターヤはニーシャの中で精いっぱい抵抗した。


 話してはいけない。

 正体をばらしてはいけない。


 ターヤはウィルの瞳に彼のどす黒い思いを見た様が気していた。


「ウィル……、実はワタシは……」 


 ターヤの思いは届かず、ニーシャはウィルに全てを話した。

 しかし、ウィルの取った行動はターヤが予想したものを異なった。


 全てを聞いたウィルはニーシャを妻に迎えたいと願った。

 かわいい妹のたっての願いと、火の神と水の女神は祝福した。

 そして土の神を人間にした。


 ターヤはニーシャの中で、ニーシャの喜びを感じ、自分の予感が気のせいだと思った。


 しかし、数年後、ウィルは本性を現していった。

 ウィルはニーシャが自分を深く愛していることを利用し、まだ土の力が使えるニーシャにあることをさせた。


「火の神と水の女神は自分を殺そうとしている。土の神のお前を奪った俺は許せないんだ」


 ターヤはニーシャの中で、ウィルを罵った。そしてニーシャに語りかけた。


 『この男を信じたらだめだ。火の神も水の女神もそんなことは思っていない』


 しかしターヤの言葉が聞こえるはずもなく、ニーシャは怯えてそう言うウィルの言葉を信じた。

 そしてある日、火の神と水の女神を呼びだし、石に閉じ込めた。

 それからニーシャは自分が死ぬまで石を隠し続けた。


 ニーシャの中でターヤはニーシャの苦しみを感じた。

 愛する男のためとはいえ、兄と姉を石に閉じ込めた。


 ターヤは、ウィルとニーシャの結婚生活が徐々に歪んでいくのを見ていた。

 ウィルは石を欲していたが、ニーシャはそれだけはと口を噤んだ。


 数年後、ニーシャは苦しみの中、双子を産み死んだ。


 ニーシャが死んだあと、ウィルは石を探した。しかし見つけることができなかった。

 二十年後ウィルが死し、成長した双子の子供たちが石を見つけた。双子は石を使い、火と水の力を操った。

 そして噂を聞きつけ、二つの大国が動いた。

 北のシュイグレンが双子の兄を味方につけ水の女神が宿る石を、南のシュイグレンが双子の妹を味方につけ火の神が宿る石を奪った。

 そして水の『神石』と火の『神石』の時代が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ