フォーグレンの神官100
「アルビーナ!」
そう声が聞こえ、目を開くとミシノが側にいるのがわかった。何も痛みがなかった。センの姿はそこにはなかった。
立ち上がり、見渡すとセンがデイを庇い、血を流しているのが見えた。
「セン!なんで、なんであんたは!」
アルビーナは泣きそうな声でそう叫ぶと、センのいる場所に飛んだ。
☆
「……わかった」
ターヤがそう答えると火の神が笑ったような気がした。
火の神と契約した時に、命を捨てる覚悟はした。
今さら同化するなど、問題ではないはずだ。
すこし痛いが死にはしない。
そう火の神の声がして、ターヤは体が熱くなるのがわかった。
「うああああ!!」
あまりの熱さにターヤが悲鳴を上げる。
「ターヤ!」
側にいたロセは様子のおかしくなったターヤに触れようとした。
「僕に触らないで!」
ターヤはロセから離れると、そう叫んだ。そして痛みと熱さをこらえ、顔を上げるとロセに微笑む。
「ロセさん……色々ありがとうございました。僕……ロセさんが好きです」
「ターヤ!?」
ロセは動揺してターヤを見る。
「だから僕はあなたを守りたい。みんなを守りたい。僕が終わらせます。父さんを道連れにしてでも!」
「ターヤ!何、考えて!」
ロセが声を荒げ、ターヤに近づく。するとターヤの体が光りはじめた。そして光は広がり、体全体が光の球体になる。
「ターヤ……どうして……」
光の球はロセの周りをふわりと飛ぶと火の龍に向かう。
火の龍が咆哮を上げ、光の球と融合する。
「ターヤ!!」
ロセの叫び声が響き渡った。
鈍い音がして、光の波が火の龍から発せられた。それは水の龍が融合した時の比でなく、フォーグレン全体に広がっていく。
幾重もの光の波が放たれた後、光が凝縮し始める。そして現れたのは黄金の龍だった
人々は新しく現れた龍に気をとられていた。
デイは血を流し、青白い顔のセンを抱きかかえると、すばやく空に飛び上がった。
黄金の龍が現れた今、戦いは互角。
そうなるとデイにとってはここにいる理由はなかった。
牢獄に入れられる、殺されるのはまっぴらだった。
逃げる必要があった。
一人で逃げるつもりだった。
しかし、デイはセンを抱くと北に向けて飛んだ。
黄金の龍は咆哮をあげると虹色の龍に飛びかかった。そしてその首筋を噛むと蛇のようにその体を締めあげ、空に向かって昇り始めた。
空の様子が変わる。落雷が発生し、雲が空を覆っていく。太陽が雲に完全に覆われ、地上に夜のような暗さをもたらす。
龍達の姿が空に吸い込まれていく。
そしてその姿が完全に空に消えた瞬間、爆発音が起きた。
雲が弾け、空が真っ赤に染まる。
「ターヤ!」
ロセが空に向かってそう叫び、空高く上がる。ターヤの痕跡を、龍の痕跡を探そうと必死になって飛びまわる。
しかし空には縮れた雲が広がるだけで、ロセは何も見つけることができなかった。