フォーグレンの神官98
爆風が発生する。
ロセはターヤのことを庇い、ネスがティアナは連れて跳ぶ。
「火の神だけじゃ無理かもしれない」
ロセに庇われ、龍達の戦いを見ながらターヤはそうつぶやいた。
「……じゃ、俺達も戦おうぜ。戦ってラズナン……親父さんを元に戻そうぜ」
青ざめた表情のターヤの頬にそっとキスをするとロセは笑った。ターヤは真っ赤になりロセの胸を軽く叩く。
「ほらほら、力を無駄に使わない。行くぜ」
ロセはターヤをその腕から解放すると、『神石』のかけらを取り出す。そして剣に変えた。ターヤは鞭を作り出すと、ロセの隣で構えをとった。
ネスは戦いから離れた場所に降り立った。戦いはまだ続いていた。しかしティアナ一人を戦場に置くと何が起きるかわからなかった。
ロセ、ターヤ、頼んだぞ。
ネスはティアナの傍らでそう願いを込めて、戦況を見守った。
ティアナは姿の変わってしまった父親のラズナン、そして初めて知った妹の存在に驚きながらもネスの隣でじっと戦いを見つめていた。
「面白いことになったな!」
デイはそう言いながら、虹色の龍と苦戦しているターヤ達の側にゆっくりと降り立った。
なぜラズナンが十七年前に死ななかったのか、これで合点がいった。
ラズナンの中に水の女神の一部が入り込んでいたのだ。
だから火の神の攻撃に耐えられた。
「さあ、どう戦うか、見せてもらおう!」
デイは腕を組むと高らかに笑った。
ロセはそんなデイの言葉を忌々しく思いながらも、神経を虹色の龍との戦いだけに集中させた。
「ターヤ!」
龍の白い炎がターヤを襲った。しかし、火の龍の炎がそれを相殺する。
ロセは剣を握り締めると虹色の龍に飛び掛った。
「ネス様!」
ミルの声が聞こえ、ネスは安堵した。デイが現れ、ミルがデイによって殺害されたのではないかと考えていたのだ。
「ミル、姫様をここで守っていてくれ」
ネスはミルにティアナのことを任せると、再び戦場に戻った。
「アルビーナ、センのことは頼んだぞ!」
虹色の龍が現れ、ターヤ達が苦戦している様子を見ると、カネリがアルビーナにそう声をかけた。
「任せておいてよ。あたしはセンよりも強いんだから!」
カネリはその返事に苦笑しながらも龍との戦いに参加するために、街門を後にした。
「さあ、セン!やるわよ!」
アルビーナは鞭を両手に掴むと、能面のような表情のセンに不敵な笑みを向けた。
☆
「ネス、戦いを止められなかったようだな」
「お前こそ、弟子にやられるとは無様だな」
ネスとカネリは顔を見合わせるとそう悪態をつきあった。内心、お互いの無事が確認できて二人は安堵していた。
デイは二人が戦場に姿を現したのを見て、ため息をつく。
「多勢に無勢ではないか。俺が水の龍につこう」
そう言うとデイは槍を作り出し、空に浮かぶ二人に相対した。
「カネリ。お前は龍を。俺がデイの相手をする」
「……俺は別に構わないが」
デイが槍を構えたまま、ネスに皮肉な言葉をかける。
カネリは一瞬迷いを見せたが、龍の元に向かった。
「大神官様!」
ターヤはカネリの顔を見ると、うれしそうにそう呼んだ。しかし言葉を交わす余裕がないほど、連続で龍の攻撃が繰り出される。
龍の白い炎は火の龍に相殺された。しかしその鉤爪と尾による攻撃がターヤ達を苦しめた。火と水の攻撃は虹色の龍には効かなかった。その美しい鱗がすべての攻撃を防いでいた。