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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第1章 火の『神石』
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フォーグレンの神官7

「アルビーナ。本当、君って悪趣味だね」

「そう?」


 ミシノに水の女神の力を使ってもらい、浴槽にお湯を張ってもらった。アルビーナは湯船に気持ち良く浸かりながらミシノを見上げる。


「大っ嫌いな存在になって、抱かれるなんて」

「それが面白いのよ。自分が愛する男が他の女を抱いたなんて知ったらセンがどう思うかしら?まあ。今頃牢屋の中でそれどころじゃないと思うけど」

「本当‥…悪趣味だね」

「そう?センが嫉妬で苦しむ姿なんて見れたら、どんなに楽しいかしら」


 アルビーノは歌うようにそう言うと、ポッシャンと頭のてっぺんまで湯船に入れた。


「ぷはあ。気持ちいい。本当、ミシノの作るお湯はいいわねぇ」


 湯船から顔を出し、アルビーナは満面の笑顔をミシノに向けた。


「どういたしまして。じゃあさあ、何かお礼にちょうだい」

「何が欲しいの?」


 ミシノからそんなことを言われるとは思わず、アルビーノは意外そうな顔をした。


「君。いいでしょ?」

「いいわよ。でも疲れてるんだけど?」

「そういうことじゃなくて。君のすべてが欲しいの。いいでしょ?」

「……意味がわからないわ」


 アルビーノは珍しく顔を歪めると、ミシノを見た。

 ミシノはくすっと笑うと、湯船の中のアルビーノの火照った頬に軽く口づける。


「じゃ、僕はちょっと偵察してくるね」


 そしてアルビーノに背を向けると、軽く手を振り、浴室を後にした。




「じゃ、おっさん。姫様を送り届けたら返すから」


 フォーグレンの街外れの馬車屋でロセは満面の笑みでそう言った。

 ロセは兵士の顔を使い、カルグレンのある貴族のご子女を送り届けるために馬車を借りるといい、有無を言わせなかった。


「さ、お姫様」


 ロセはターヤに笑顔を向けるとターヤはつくづく嫌そうな顔をした。しかし、ここでロセに文句を言うわけにはいかない。

 ターヤは姫に使える従者という設定のセンに対して緊張しながら、センに手を取られ、幌の付いた荷台に乗った。そしてセンが荷台に乗るのを確認すると、ロセは御者台に登る。


「じゃ、おっさん。明日にはもどるからさ」


 通常であれば金貨1枚で貸している馬車を無料で貸し切られ、馬車者の店主は茫然と颯爽と走りさる馬車を見るしかなかった。



「センさん、ターヤ。すこし休んだほうがいいぜ」


 フォーグレンから少し離れたところで、ロセは御者台からひょいっと顔をのぞかせ、そう言った。そして、すやすやと寝ているターヤを見て顔をほころばせた。


「寝ちまったか。新米さんみたいだっからなあ。疲れたんだろ。あんたも休んだらどうだ?宮殿から戻って来たばかりでこんなことになって疲れてるだろ?」

「‥…私は必要ありません」


 センはそれだけ答えるとすやすやと熟睡しているターヤに、自分が羽織っているケープをかぶせた。

 ロセは一瞬何かを聞こうと思ったが、首を振ると顔をひっこませると、馬車の操縦に集中した。

 ロセにも聞かれたくないことがある。同様にセンにも聞かれたくないことがあることはわかっていた。


 宮殿で二人の様子をよく見ることがあった。

 ハーヴィンがセンに恋しているのは見てわかった。

 そして、セン……。

 火の神殿の上級神官であるセンはいつも変わらない態度だった。しかし、ロセには時折センがその想いに戸惑いを感じているのもわかっていた。


 アルビーナとセンが友人同士であったことは、ハーヴィンから聞いていた。

 二年前の神官の選考の際に二人の友情をたち切ってしまったと、辛そうに語ったハーヴィンの姿を覚えている。


 友情か‥…。


 ロセはふと、金髪の青い瞳の友人を思い出し、苦笑した。


 俺は水の神殿の神官だ。

 神使人しんしとを野放しにすることはできない。


 ロセは手綱を強く掴むと、カルグレンへの道を急いだ。



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