終節
よしよし、脱稿。
ま、こんなもんだろ。
デスクの笑顔なんていつぶりに見たんだか。しんど。
【社会の闇、路上の射殺事件に隠れた悲劇!
身元不明の高齢男性が息子を救おうとした父親により射殺された事件。
加害者とされる老人は、実は優しい少年に水を恵んでもらっていただけの哀れな被害者だった。
凶悪な誘拐犯では決してない。
だが、父親を悪とは言うまい。走って角の先に消えた息子。追いかけて角を曲がれば、息子の水筒を持ち立ちはだかる大柄な老人。
筆者でさえ、愛する我が娘が同じ状況であれば、引き金を引くのを躊躇いはしない。
それを責めるのは想像力の欠如だ。
この記事を読む方は、事件の映像と音声を見聞きしただろうか。未視聴の方の為に、文末にリンクを置いておく。
賢明な読者の皆様は、ちぐはぐさに気付いたことだろう。両手を上げ無抵抗なのに、口では父親の警告をことごとく拒絶している。
父親もさぞ恐ろしかっただろう。
筆者は、死亡した老人の足跡を辿った。
そこで出会ったとある活動家は、彼は言葉が不自由だと語った。YESとNOを取り違えている、と。
音声を聞き返して欲しい。
もし本当にそうだとしたら、老人は従順だっただろう。そうだとしても、あの極限状況の中で、気付き、信じる。そんなことは可能だろうか?
筆者には出来ない。
老人はとある村の出身だった。
正確には、村に隣接する森の出身だ。
狩猟による安全と村の物資を取引する彼には、戸籍すらなかった。教育もなく、言語能力がどれほどあったかも怪しい。
何かのきっかけで森を出された彼は、近くで起きた事件の聞き込みをする警官にこう問われた。
「犯人のことを知っているか?」
彼はYESと答えただろう。意味がYESかどうかなど、問われることはない。
聴取で、裁判で、監獄で。問いに答える度に、彼は理解されなくなっていった。私が知る彼は、言葉を交わす相手を持たなかった。
とある活動家により理解を得た彼は、その懸命な働きかけでケアセンターに移管された。
だが、彼はそこを脱走した。
何故か?それは分からない。
そして、彼は撃たれた。
はたして、誰が気付けただろうか。向き合い、親身になることは出来ただろうか。
活動家は確かに老人の心を救ったのだろう。
ケアセンターに残された一言。
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ありがとうさえ書けない彼の精一杯の感謝。
だが、彼女でさえ、救い切れなかった。
もっと早く誰かが気付いていれば。
そう思うと、悔やまれてならない。
この悲劇を繰り返さないよう、我々に何ができるだろうか】
「は、ご立派な記事だな」
「だろ?そりゃ、これで飯食ってんだからな。あんだけ動いて分かりませんでした、じゃガキの遊びにもならねぇ」
「これなら銃批判も起きないだろうしな。スポンサー様もさぞお喜びだろうよ」
「ああ。これはボーナスが楽しみだ」
「しかしまぁ、嫌味だね。誰も悪くない、ってことは全員悪い、ってことだろ」
「人間皆罪を背負って生まれてくるんだ、悪くないなんて言うのは悪いヤツだけさ」
「違ぇねぇ。ところでテッド」
「あん?」
「お前、娘なんていたのか?」
「ちゃんと書いてあるだろ、仮定の話だって」
「左様で。それで、報酬のコーヒーがまだなんだが、まさか忘れてやしないよな?」
「ああ、覚えてるさ。……ボーナス出たらな」
「ああ、トマス?取材に協力してくれた人らに一部ずつ送っといて。ミスブラウン、マダム、それと雑貨屋。ほい、アドレス送ったから。あ、是非感想を、って。よろしく」




