第41話 誰にも渡さない
眼前に迫る真美さんのお尻。ムッチリとした重量感でありながら、細いウエストとの対比が凄まじい、魅惑のお尻だ。
しかも真美さんはミニスカートだった。
ヒラヒラと揺れるフレアミニから、清楚な白い下着がチラチラと見えている。
「うわぁああ! 真美さんストップ!」
俺は迫りくるデカ尻を、必死に手で受け止めていた。
このままでは、顔が踏まれてしまうから。
「俊くんのエッチぃ♡ 触りすぎだよ♡」
「触らないと顔に乗っちゃいます!」
「言ったでしょ♡ 俊くんはお尻で半殺しだって♡」
真美さんは楽しそうな顔で舌を出す。
「えっ、真美さん?」
「ホントはね、ずっと隠していたかったんだよ」
恍惚の表情をしながら、真美さんは話し続ける。
「だって俊くんは清楚でお淑やかな人が好きだと思ってたから」
「えっ?」
「でも違ったんだね。万里小路さんみたいに、踏んでくれる人が好きなんでしょ?」
真美さんからドSオーラが放出される。それは瑛理子先輩を超えるような、もはや魔王レベルの凄まじさで。
まさか真美さんが、ドSだったなんて。
「ふふっ♡ 俊くん♡ すっとこうしたかったの♡ もう隠さなくても良いよね♡ これから俊くんは、一生私のお尻の下で暮らすの♡ 毎日踏んであげるね♡」
むぎゅぅ~っ!
真美さんが体重をかけたことで、顔と尻の隙間が一気に狭まった。もう俺の顔が真美さんのお尻に埋まってしまいそうだ。
「真美さん、ストップ!」
「止められないよ♡ だって、万里小路さんには踏まれてたでしょ」
「それは……」
確かに瑛理子先輩の脚には、俺の理性を飛ばせる魔性の何かがある。それに、真美さんの胸やお尻にも……。
でも、こんなのされたら、もう俺は戻れなくなってしまう。
俺が憧れた、幼馴染のお姉さんとの関係に。
「ほら♡ ほら♡ 俊くんは、もう一生私の椅子だよぉ♡」
「真美さん! 元の優しかった真美さんに戻ってきてぇええ!」
「えっ!」
俺が叫んだ瞬間、圧し掛かっていたデカ尻から、ふっと力が抜けた。
ギリギリで解放された俺は、暴れる心臓を落ち着けるのに必死だった。
あと数ミリで、俺の顔と真美さんのお尻が密着するところだったのだ。
あれから真美さんは、真っ赤な顔を両手で押さえたまま固まっている。恥ずかしがっているのだろうか。
「あの、真美さん」
ピクッ!
声を掛けると、真美さんの体が震えた。
「ご、ごめんね。わ、私……どうかしてた」
「えっと……」
「引いちゃったよね?」
真美さんは、恐る恐るといった感じに俺を見た。体は小刻みに震えて、何かに怯えるように。
「俺は…………」
正直なところ引いている。あの優しくて清楚な真美さんが、本当はドSな女王様だったなんて。
でも、そこまでショックじゃない。
前の俺だったら、清楚な真美さんの違う一面に驚き、ショックで寝込んでいただろう。
でも、今は受け入れてしまう自分がいる。
瑛理子先輩やメアリー先輩に出会って、ドSヒロインに慣れたからだろうか。
「確かに驚きました、でも、そこまで引いてないですよ。真美さんは真美さんですし」
「しゅ、俊くん♡」
ズズズイッとにじり寄った真美さんは、俺の手をギュッと握った。
「ごめんね俊くん♡ エッチなお姉ちゃんで。私が俊くんを踏みたがるお姉ちゃんでも、嫌いにならないでくれる?」
「はい」
真美さんの両手に力がこもり、熱を帯びたようなひとみは俺をジッと見つめている。
「真美さんは、ずっと俺が憧れた優しいお姉ちゃんですよ」
「ふぁ♡ 俊くぅん♡」
真美さんが元に戻ったようだ。ドSオーラは出ていない。
代わりに妖しげな雰囲気になった気もするけど。
「ああぁ♡ 俊くん踏みたいけど我慢だよ♡ でもでもぉ、食べ物に腋汗や尻汗を入れるのは良いよね♡ あれだけはやめられないの♡ 俊くんは、体の中まで私色に染められちゃうのぉ♡」
今何か変な単語が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。気のせいということにしよう。
詳しく聞くのが怖いから。
「俊くん……ずっと私だけの俊くんでいてくれるよね」
真美さんの口から、信じられないようなセリフが出た。
それはどういう意味なんだろうか。
幼馴染みの弟という意味なのか。それとも……。
「真美さん」
「な、何でもないよ」
真美さんの様子がおかしい。
さっきのドSなのもだけど、今度は俯いて肩を震わせている。
「私……怖いの。俊くんが居なくなっちゃうんじゃないかって」
「俺はどこにも行かないですよ」
ガバッ!
「俊くん!」
真美さんが俺の胸に飛び込んできた。
甘い香りと柔らかな感触が、俺の腕の中に。
俺がこの腕でギュッとするだけで、真美さんの全てを手に入れられそうな。そんな気がして……。
「俊くん♡」
上気した顔の真美さんが俺を見つめる。
すぐ至近距離で。
「あ、あの、真美さん?」
「キス……しよ」
「えっ?」
真美さんが『キス』って言った。聞き違いじゃないよな?
でも、どうして……。
真美さん、もしかして俺のことを?
「ほ、ほら、練習だよ。俊くんがファーストキスする時の」
「ファーストキス……」
俺は思い出していた。体育祭で瑛理子先輩とキスしてしまったことを。
あれは不可抗力だ。偶然にくちびるとくちびるが当たてしまっただけで。決して恋人同士のそれじゃない。
はずなのに……俺の中で瑛理子先輩の想いが、どんどん大きくなっていく。
「ぐぬぬぬぬ……」
気がつくと、目の前の真美さんが苦悶の表情を浮かべていた。
「俊くん、キスしたことあるんだ?」
「えっ、そ、その……」
まさか、気づかれた?
見られていないと思っていたのに。
それとも、俺の反応でバレバレだったとか?
「むかつく」
「えっ?」
真美さんの瞳に狂気の炎が灯った。メラメラと嫉妬のような炎が。
「むかつく、むかつくむかつく! 滅茶苦茶むかつく!」
「ま、まま、真美さん?」
「俊くんは私の俊くんなのに! 何でなのよ! 絶対に渡さない!」
「真美さん、落ち着いて――」
「あむっ!」
真美さんの顔がアップになったと思ったら、俺の口が塞がれていた。真美さんの口で。
「んっ! んんっ!」
「んむっ♡ ちゅ♡ んちゅ♡」
俺は真美さんにキスされていた。
何がどうなっているんだ? 俺と真美さんが? 憧れの真美さんが? キスを?
「ちゅぱっ♡」
真美さんが顔を離すと、口と口の間に唾液が糸を引いた。
「俊くん、万里小路さんと何回したの?」
「あの、その……」
「何回したの?」
真美さんの瞳が俺を射抜く。有無を言わせぬ迫力で。
「い、一回……で、でもあれは事故で――んんっ!」
「んちゅ♡ んっ♡」
再び真美さんに口を塞がれた。
「しゅ、俊君♡ ほら、舌を出して」
真美さんの言葉には、まるで強制力でも働いているみたいだ。
俺は拒否できず舌を出してしまう。
レロッ♡ チロッ♡ チロチロ♡
舌と舌が絡まる。真美さんの舌が、まるで生き物みたいに動き回る。俺の舌をノックしたり、撫で回したりと。
「俊くん♡ 私もう遠慮しないから♡ 俊くんを手に入れるためなら何だってするよ♡ ペロッ♡ しょうがないよね。俊くんが悪いんだよ。私をこうさせたのは俊くんだから」
ほぼゼロ距離で真美さんが言葉を発する。ときおり舌を絡めながら。
もう俺は一歩も動けない。まるでサキュバスに魅入られてしまったかのように。




