表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第10話 メ○ガキ先輩

 ドアから顔を覗かせているのは、フワフワの癖っ毛が気持ちよさそうなちびっ子だった。

 体は小さく愛らしい見た目をしている。


 前に何処かで見たような?


「えっと、もしかしてっスけど……」


 小柄な少女は遠慮がちに口を開いた。


瑛理子えりこ先輩は、そこの男子と付き合っているっスか?」


 ド直球の質問だった。口調こそ遠慮がちだったのに。

 質問された瑛理子先輩はキョトンとした顔をする。


「付き合ってないわよ」

「そ、そうっスよね。男嫌いの瑛理子先輩が男子と付き合うわけないっスよね」

「そうね。付き合うつもりはないわ。男嫌いじゃないけど」


 えっ! 瑛理子先輩って男嫌いじゃなかったのか。

 何となく男子が苦手そうに見えるし、謎の威圧感で他人を近づけない雰囲気だし。


「そういえば紹介がまだだったわね、みやび。こちらは新入部員の大崎君よ」


 瑛理子先輩が俺を紹介すると、いぶかしむような顔をしたちびっ子が近づいてきた。

 小さな体で必死に背伸びをしている姿が微笑ましい。


 俺は、ずっと気になっていることを聞いてみることにした。


「あの、瑛理子先輩、ちょっといいですか?」

「何かしら」


 首をかしげる瑛理子先輩が可愛くて見惚れそうになるが、俺は質問を続ける。


「何で小学生が校内に居るんですか?」


 ピキッ!


 ちびっ子から謎の音がしたかと思ったら、それまで子供のようだった雰囲気が一変した。


「あんたねえ、さっきから雅をバカにしてるでしょ! 雅はこれでも大人なんですけどぉ! 二年生なんですけどぉ! あんたの先輩なのよぉ!」


 ちびっ子からメスガキに変容した女子が飛び掛かってきた。よく見ると丸木戸(まるきど)学園の制服を着ているじゃないか。


「えっ、あれっ? 制服ってことは、もしかして高校生?」

「もしかしなくても高校生だしぃ! 先輩よ、先輩!」


 先輩を名乗るちびっ子。しかし背丈は俺の胸くらいしかない。

 俺は瑛理子先輩の方を向く。


「瑛理子先輩、この子供が先輩を主張しているのですが」

「雅は二年生よ。あなたの先輩で合ってるわ」

「は? このメスガキ……ちびっ子が?」


 ヤバい。俺は先輩に暴言を吐いていたのか。

 雅と呼ばれているメスガ……先輩は、怒りで肩を震わせている。


「こ、ここ、この生意気後輩がぁああああ! クソガキはどっちだぁああああああああ!」

「わぁああ! すすす、すみません!」


 ポコポコポコポコポコポコ!


 雅先輩の拳が俺を連打する。非力なので全く痛くないが。むしろメスガキの攻撃が心地よい。

 ただ一つだけ彼女に言いたいことがある。


「先輩、クソガキじゃなくメスガキです。クソガキは罵倒語ですが、メスガキは誉め言葉です」

「どっちでもいいしぃ! てか、ガキって呼ぶんじゃないわよぉ!」


 結局怒られた。



 お詫びの印に自販機でジュースを買ってきた俺は、瑛理子先輩とメスガキ先輩の前に缶を置く。


「どうぞ、メスガキ先輩」

「あんたやっぱり喧嘩売ってるでしょ! 雅には雅って名前があるんですけどぉ!」


 メスガキ改め、みやび先輩が気色ばむ。


「冗談です。メスガキのインパクトが強くて」

「だからガキって言うなぁ! あんた反省してないわね!」

「じゃあ雅先輩」

「馴れ馴れしいのよ!」

「そのくらいにしなさい。部活の話に戻るわよ」


 瑛理子先輩にたしなめられた。


「すみません、瑛理子先輩」

「すみませんっス」


 雅先輩も瑛理子先輩には頭が上がらないようだ。


「何よ、私の時は苗字呼びだったくせに。雅には自分から名前を呼ぶのね……」


 瑛理子先輩が何かつぶやいた気がして、俺は聞き返す。


「何か言いましたか?」

「何でもないわ」


 何でもないと答えるわりには、瑛理子先輩の顔は不満そうだ。少しだけ口を尖らせた表情が可愛らしい。


「とにかく、これで部員は四人になったわね。廃部の危機を脱したわ」


 四人という言葉に、雅先輩の頭に『?』マークが浮かんでいるようだ。


「雅には言ってなかったわね。もう一人、三年の黒森さんが入部したのよ。水泳部との兼部だけどね」

「ほへぇ、あの学園の有名人、メアリー先輩っスか」


 雅先輩が驚きの表情になった。

 二年生の間でもメアリー先輩は有名なのか。


「これで文芸部も安泰ね。今日から本格的な活動に入るわよ」

「はい」

「はいっス」


 雅先輩が来たことで、瑛理子先輩はもう一度活動方針を説明した。

 各々好きな小説を一作品完成させることを。


「話を聞いていると面白そうっスね。雅も何か作ってみたくなったっス」


 幽霊部員の雅先輩もやる気になっている。瑛理子先輩の話を聞いて興味がわいたのだろう。

 今はWEBで簡単に投稿できるという手軽さもあるからな。


「それは良いわね。雅も一つ作ってみるのはどうかしら? 短編なら時間もかからないわ」

「そうっスね。恋愛ものとかなら」


 雅先輩が乙女の顔をしている。


「何よぉ。何か文句あるぅ? さっきから雅をジロジロ見てるけどぉ」


 隣に座っている雅先輩が、俺の方に身を乗り出してきた。

 微笑ましい気持ちで眺めていただけなのに。


「えっと、子供を見守る親心と言いますか……」

「だから子供じゃないって言ってるでしょぉおおぉ!」


 また雅先輩が飛び掛かってきた。

 そういうところが子供っぽいのだが。


「ふーん、そういうことしてると雅にも考えがあるんだけどぉ」

「何ですか? ポコポコは利かないですよ」

「ポコポコって何よぉ! そうじゃなくて、あんた瑛理子先輩の足を舐めてたでしょ?」


 ギクッ!


 しまった。そういえば、あの時に見られたのって雅先輩だったよな。

 そうだ、小学生だと思って忘れてたけど、あの時も瑛理子先輩が『雅』って呼んでたぞ。


「ふふぅ~ん、あんたMっぽいと思ったけどぉ、やっぱそうだったんだぁ」

「くっ、あれは違うから。物語のシチュエーションをですね……」

「きゃははぁ♡ 隠さないでいいわよぉ」


 雅先輩の顔が歓喜に満ちているじゃないか。まさにメスガキみたいな顔で。


「ざーこ♡ ざーこ♡ ねえねえ、今どんな気持ちぃ?」


 くっそ! この先輩、まさに漫画に出てくるメスガキそのものだぞ! 先輩なのに。

 反撃してわからせたい!


「やめなさい、雅。あれは私がやらせたのよ。舐めるフリだったの。大崎君は私の執筆に協力してくれていたのよ」


 瑛理子先輩から援護が入った。天使かな?

 今まで悪魔みたいだと思っていてすみません。


「なぁんだ、Mじゃなかったのか。ざぁんねん。あんたがMなら、雅が足を舐めさせたのにぃ」


 おいこらガキ。調子に乗ってるなよ。

 マジでわからせるぞ。


「大崎君がドMなのは否定しないわ。素質あるわよ」


 こらぁああああ! やっぱり瑛理子先輩は悪魔だったよ! 天使とか思った俺がバカだったぜ!



 そんなこんなで、楽しく(?)創作談義は続き、あっという間に下校の時間になった。


「雅、これから大崎君と執筆道具の話をするのだけど、あなたも来る?」


 帰り際、瑛理子先輩は雅先輩に声をかけた。


「ごめんなさいっス。今日は友達と約束があって」

「そう、じゃあまた今度ね。いつでも部室に来て良いわよ」

「はいっス」


 元気に手を振った雅先輩は、本当の小学生みたいに駆けていった。


「元気な子供ですね」

「あなたの先輩よ」


 そんな話をしながら、俺と瑛理子先輩は部室を出た。

 一緒に廊下を歩いていると、また緊張してしまう。

 クラスメイトに見られたら噂になってしまうとか考えながら。


「私の家は電車で下り方面だけど」

「俺も同じです」


 ん!?


「って、ちょっと待て!」

「何よ?」


 昇降口まで来たところで気づいた。これから瑛理子先輩の家に行くことを。


「ちょ、ちょっとマズくないですか?」

「何がマズいのかしら」

「今から先輩の家に行くんですよね?」

「そうよ」

「年頃の男女が二人っきりですよ」

「何か問題かしら?」


 問題だらけだよ!


「あの……俺も男ですよ。二人っきりになったら、俺が何かするとか思わないんですか?」

「何かするの?」

「しませんよ!」

「なら問題無いわね」


 瑛理子先輩はどんどん歩いていってしまう。


「ちょっと待ってください!」

「まだ何かあるのかしら?」

「だから女子が部屋に男を入れるってのはですね……」

「大崎君が何もしないなら良いでしょ」

「先輩は無防備すぎます。知り合ったばかりの男を部屋に入れるのはですね……」


 振り向いた瑛理子先輩は真面目な顔になった。


「私は誰でも部屋に入れる訳じゃないわ」

「えっ?」

「お、大崎君だから入れるのよ」


 それってどういう意味だよ!

 もしかして……。


「私は男を見る目はあるつもりよ。大崎君は信用できると思ったから連れて行くの。それに……一緒に小説を書くって言ってくれたから……」


 少し照れた顔で話す瑛理子先輩。そんな顔をされると、本当に誤解してしまいそうで。


「わ、分かりました」

「分かれば良いのよ」


 俺は先輩の後をついて歩く。

 緊張で足を震わせながら。

 ただ、この後の俺に修羅場が起きるとは思いもしなかったのだが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


姉喰い勇者と貞操逆転帝国のお姉ちゃん!

書籍情報
ブレイブ文庫 第1巻
ブレイブ文庫 第2巻
COMICノヴァ

-

Amazonリンク

i973423
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ