第1話 出会ってしまった
「俊! おっきろぉおおっ! 朝だよ~! 朝○ちだよ~! 新しい朝が来たよ~! おりゃおりゃぁ!」
布団に包まれている俺の体に衝撃が走った。やたらテンションの高い女の声と共に、体の一部に妙な刺激が――って、そんな場合じゃねえ!
「いったぁああっ!」
「ほれほれぇ! 早く起きないと電気あんまの刑だぞぉ!」
俺の両足を抱えたまま体の一部を踏みつける女が、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
そう、嗜虐心たっぷりな悪魔のような笑顔で。
「○○○踏まれたくなかったら起きろぉ~!」
「もうやってるじゃねーか! ったく」
無理やり足を引き離したこの俺、大崎俊は、布団で下半身を隠しながら女を見上げる。
「何処の世界に、弟を電気あんまで起こす姉が居るんだよ!」
「ここに居るだろ。ぬふふぅ」
ふざけた態度で笑うこの女は、大崎凛。俺の姉だ。
ご覧の通り、傍若無人でドSな女である。
こんな女でも、学校では憧れの先輩という立場だ。
俺が一年生で、凛が三年生。俺のクラスでも、大崎凛といえば、美人で気さくな先輩女子として大人気だったりする。
本性を知っているのは俺だけだがな。
「やっぱ、朝一番にあんたの股間を踏まないと始まらないわよね」
とんでもない発言を残して部屋を出てゆく姉を見送り、俺は深いため息をついた。
「はぁ……何やってんだよ。朝から刺激が強いっての」
ただでさえ体の一部がアレな感じになっているというのに、あの女ときたら……。
いかんいかん。深く考えないようにしよう。
姉に踏まれて興奮するなんてバレたら、俺の立場が終わる。
「ったく、うちの姉ちゃんときたら。少しは真美さんを見習えよな」
真美さんというのは姉の友人だ。
俺にとっては、幼馴染のお姉さん。優しくておしとやかで、凛とは正反対のタイプ。
実は中学の頃からずっと、彼女に淡い恋心を抱いていたりする。誰にも内緒だけどな。
「おっと、のんびりしている場合じゃない」
体の一部が静まったのを確認した俺は、ベッドから出て洗面所に向かう。
高校一年の春。ゴールデンウィーク明けの、新緑鮮やかな五月中旬。クラスでは自然にグループや序列が形成される季節だ。
容姿、コミュ力、所属する部活、誰が決めたわけでもないのに、勝手にランク付けされてしまう時代だったりして。
「よし!」
洗面台の鏡の前で気合を入れる。両手で頬をパチンと叩いて。
中学では根暗オタクだった俺だが、高校では上手くやれている……はず。
長かった髪も切って、ちょっとは垢ぬけたしな。
「ぷっ、何が『よし!』よ」
扉の隙間から姉が覗いていた。
「何でも良いだろ。高校デビューした俺は、恋愛をしてリア充になるんだよ」
「うっわぁ、クサいセリフ言っちゃって。あんたが恋愛ですって。ぷぷぷぅ」
凛が口に手を当てて笑う。
「恋愛だけじゃなく、部活とか勉強とか何かやりなさいよ」
「男の股間を踏む女に言われたくない」
「なによぉ。元気にしちゃってたくせにぃ」
「くっ……」
くっそ! 許されるのなら、この姉のケツを張り飛ばして泣かせたい。
まあ、逆襲されて泣かされそうだが。
ピンポーン!
朝食と支度を終えて玄関に向かうと、まるで待っていたかのようにチャイムが鳴った。
朝一番の癒しタイムだ。
ガチャ!
「おはようございます」
そう言ってドアから顔をのぞかせたのは、憧れの先輩である望月真美さん。
近所に住んでいて、いつも凛と一緒に登校している。
優しくて、おっとりした雰囲気で、しかも美人、まさに最高の女の子だ。
ああ、今日も可愛いな。
サイドを編み込んだセミロングの髪が、朝日に照らされて輝いている。
天使のような笑顔と相まって、光を纏ったように神々しい。
しかもスタイルも抜群で巨乳ときた。つい制服の胸元に視線がいっちゃうのは……まあ仕方がないよな。
「お、おはようございます。真美さん」
ちょっと噛んでしまった。この人の前だと緊張するんだよ。
ガキの頃は、普通に仲良くしていたはずなのに。
「おはよう、俊くん」
真美さんは、春の日差しのような笑顔で返してくれた。
ああ、名前を呼んでもらえるだけでドキドキする。
どうして神は、この人を姉にしてくれなかったのか……って、それじゃ真美さんと付き合えないか。
付き合うとか想像してしまい、自分の顔が熱くなるのを感じた。
付き合えるわけねーだろ!
「ごめーん! ちょっと待って!」
家の奥から凛の声が響いてきた。
あの姉め、髪のセットやメイクとかで、いつも時間がかかるんだよな。
真美さんを待たせるんじゃない。
チラッ!
ん? 今、真美さんと目が合ったような?
もしかして、俺を見ていたのか?
不思議と、真美さんとは目が合うことが多いんだよな。
まあ、気のせいだと思うけど。
「うふふっ♡ 俊くん、今日は何かオシャレだね」
「そ、そうですか?」
真美さんに褒められて舞い上がりそうになる。
「もしかして、好きな子でもできたのかな?」
「そんな、好きな子なんて。俺は非モテですから」
好きな子は目の前に居るけど、それは言えない。
「そうなんだ。今フリーなんだ……」
「ん?」
今、一瞬だけ真美さんの目が光った気がする。
やっぱり気のせいかな。
「じゃあ、俺は先に行きます」
「はい、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
真美さんにそう言って、玄関を出た。
本当は真美さんと一緒に登校したいけど、そうなると必然的に凛も一緒になる。
姉弟で並んで登校するなんて、さすがに気恥ずかしい。
◆ ◇ ◆
キーンコーンカーンコーン!
終業のチャイムが鳴り、クラスの皆が一斉に動き出す。俺はというと自分の席に座り直したところだけど。
「おい、大崎」
声をかけてきたのは、同じクラスの長瀬虎徹。中学の頃からの付き合いだ。
黙っていればそれなりにモテそうなのに、喋るとオタクっぽさが出て残念な感じになる。
名前が有名な日本刀に似ているが、それは禁句だ。
「長瀬か」
「お前、部活は決めたのか? もう期限過ぎてるぞ」
「げっ! そういや連休前までだったな」
長瀬の言葉で思い出した。この私立丸木戸学園には、一年生の間だけ必ず何かしらの部活動に参加する決まりがある。
「うわっ、入りたくねー!」
ぶっちゃけ部活は嫌いだ。さっさと帰って好きなことをしていたい。
サッカー部やバスケ部など、運動部に入れば女子にモテるという利点がある。
だがしかし、スポーツが苦手な俺が入部しても、補欠どころか二軍にすらなれず、劣等感にまみれるのがオチだろう。
「文化部はどうだよ? 俺は美術部の見学に行こうと思ってな」
長瀬が意外なことを言い出した。
「お前が美術だと? 剣道部じゃないのか? 『今宵のなんちゃらは血に飢えている』とか」
「マジでぶっ飛ばす、いや、ぶった斬るぞ」
「すまん、冗談だ」
虎徹ネタは厳禁だったぜ。
「美術部は可愛い先輩がいてな」
「女子目当てかよ」
「それ以外に何があるんだ」
「正直なやつめ」
まあ、好きな人と一緒の部活というのもアリだが。
「大崎は文芸部とかどうだよ? お前、読書好きだろ」
「まあ漫画やラノベは好きだがな」
そんな話をしながら長瀬と別れた。
やつは美術部の見学に行くらしい
文芸部か…………俺も昔は小説を書きたいって思ってたんだよな。
でもある出来事がきっかけで辞めたんだよ。
あの頃からずっと、俺の中では不完全燃焼した何かが燻り続けている。
長い廊下を歩いた先にある文化部の部室棟……といっても、空き教室を利用しているだけだが。
その一角に『文芸部』と書かれた部屋があった。
「ここか……ちょっと見学してみようかな?」
いざドアを開けようとすると、緊張で体がこわばる。
体育会系のような怖い先輩はいないだろうが、それでも初対面で話すのはどうにも苦手だ。
「よし」
ガラガラガラ!
意を決してドアを開けると、そこには西日に照らされた美しくも妖し気な超絶美人が立っていた。
背中まで伸びる黒髪は、まるで黒絹のように艶やかで、スラっとした長身は完璧なスタイルだ。
大きく美しく印象的な瞳が、静かにこちらを見た。それだけで俺は、天地がひっくり返るような衝撃を受けてしまう。
「あら、あなたは……入部希望かしら?」
その美人が口を開いた。まるで脳を揺さぶるように、知的で冷徹で妖艶な美声で。
「は、はい……」
俺は一瞬で心を掴まれてしまった。まるで悪魔メフィストフェレスに魅入られたファウスト博士のように。
「あなた、SMは好きかしら?」
「は?」
この瞬間、俺は出会ってしまったのだ。
俺の性癖を歪ませる……じゃなくて、忘れていた情熱を呼び覚ます運命の女王に。
学園一の美少女先輩と仲良くなったら、幼馴染のお姉さんがヤンデレ化するラブコメになります。
三角関係でジレジレしたりドロドロしたり、たまにとんでもない愛激重展開になったり。楽しんでもらえらた光栄です。
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モチベ上がります。




