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炎帝の憂い

最強の炎帝陛下も恋する乙女なのです



「サフィルス様?どうしてわたくしに触れてくれないのです?わたくしが恐ろしいですか?わたくしと貴方の子が産まれる事を厭うていらっしゃいますか?」


 ルビーナは、同じ寝台に横になる夫に告げる。

 サフィルスは、いつまでたってもルビーナに触れようとしなかったからだ。


「ルビーナ。君は今のままでは満足できない?」


 ルビーナの赤い髪を指先にくるくると巻きつけサフィルスが告げた。


「だって…。やっぱりわたくしが無理やりサフィルス様を縛りつけたせいのような気がして」

 

 じわりと炎帝の(まなじり)に涙が浮かぶ。


「正直にいうと、まだ戸惑っているよ。俺の姫は変わってしまった。それなのに、この胸のうちにある熱は何なのだろうと」


 サフィルスはルビーナの頭をその胸に引き寄せ優しく撫でる。


「簡単に心変わりしたみたいで、自分が許せないんだよ。もう少し時間が欲しい」


「わたくしの事、お嫌いではないのですね?」


 ルビーナは安堵の吐息をつき、サフィルスの逞しい胸に頬を擦り寄せた。


「ああ。こんなに理不尽なのに、嫌いにはなれなかったな。いっそ、嫌えていたら楽だっただろうに。不甲斐ない男ですまない」


「まったくですわ。わたくし、気が短くなりましたの。長くは待てませんわよ?」


 小首をかしげてサフィルスを見上げ、ルビーナは苦笑した。圧倒的な力で周辺諸国を従えた最強の炎帝は、夫には弱かった。





 サフィルスは、隣で寝息を立て始めたルビーナの顔を見つめた。

 涙の跡が残るその頬は、炎帝の威圧感など微塵もなく、かつて愛した儚げな少女そのものだった。


 国を焼かれた。運命をねじ曲げられた。

 恨む理由はいくらでもある。


 けれど、この胸にある熱は、どうしても冷めてはくれない。


 サフィルスは、震える手でそっとルビーナの髪に触れた。


「……待たせて、すまない」



 二人が真に結ばれたのは、まだ今少し後の事である。

久々に炎帝陛下のお話を。

このお話はずいぶん前に書いていたのですが、ほかのエピソードを間に書こうと思って保留していました。あんまり前後関係も無いので、先にアップします。

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