誰も知らない声
夜、ベッドから窓を見やると、影のような霧が揺れていた。
風に溶け、囁きとなって耳に届く。
それは幻ではなかった。
私は、その声を知っていた。
――世界が少しずつ、削られていく音。
誰に告げても、信じてもらえなかった。
幻だと笑われ、夢だと片づけられた。
けれど、違った。
この胸の奥を震わせた響きは、本物だった。
手を伸ばす。
触れようとした瞬間、霧はほどけるように消えていく。
夜が更け、身体はさらに重く沈んでいく。
横たわったまま、窓の外を見つめ続けた。
彼らが何者か、私には分かっていた。
幾千もの声が重なり、祈るように震えている。
彼らは現れ消えを繰り返し、私に囁き続けるのだ。
この命が尽きる最後の刻まで――。
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※この短編にあわせて制作したインスト曲をYouTubeで公開しています。
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[誰も知らない声](https://youtu.be/p1AdIJlXqDA)