2045年
2045年。
その日、国連総会の議場は異様な熱気に包まれていた。エアコンが効いているはずの室内ですら、汗が額を流れ落ちる。まるで地球そのものが、怒りと焦りで体温を上げているかのようだった。
壇上に立った事務総長が、重く低い声で宣言する。
「本日をもって、“地球温暖化”という呼称を廃止する」
一瞬、会場の空気が止まった。
「この現象は、もはや穏やかな響きの言葉で片づけられる段階を過ぎた。我々は今日からこれをーー“地球高熱化”と呼ぶ」
大型スクリーンに赤く染まった地球の映像が映し出され、議場内の誰もが息を呑む。
「これは、環境問題ではない」
事務総長は、拳を握りしめて言葉を吐き出した。
「これはーー生存問題だ」
この瞬間、各国のニュースキャスターたちは一斉に同じ言葉を世界へ流した。
「繰り返します。これは環境問題ではなく、生存問題です」
その声はテレビやラジオから街へと溢れ、世界中の人々の耳を震わせた。
だが、街頭では怒りの声が渦巻いていた。
「何十年も前から分かってたことだろ! なんで今なんだ!」
「名前を変えて何になる! もう手遅れじゃないか!」
「高熱化?ふざけるな!生きるか死ぬかの問題だ!」
「子どもたちの未来を返せ!」
熱風がビルの谷間を吹き抜けるたび、アスファルトの匂いが焦げつくように鼻を刺す。空はかつて見たことのないほど赤く、夕焼けと夜の境界は曖昧に揺らぎ、夜空にすら薄く熱の蜃気楼が漂っていた。
南米の穀倉地帯では、小麦畑が枯れ果て、黒い土がひび割れて口を開ける。アフリカの大地では、牛やヤギが次々に倒れ込み、その瞳から光が消えていく。アジアの河川は干上がり、川底の泥がひび割れて、かつて魚が跳ねた音はもう聞こえなかった。
若い女性がマイクを握り、群衆に向かって涙ながらに叫ぶ。
「これは自然災害じゃない! 私たち全員の過ちよ! でも、まだ…まだ間に合うって信じたい!」
その声は群衆の中で波紋のように広がったが、同時に、空の赤はより深く燃え上がっていく。まるで地球が、人類の言葉を嘲笑っているかのように。