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全地球バリア作戦

国家サチは、その夜、眠らなかった。

赤黒い空の下、街の灯は全て消され、代わりに研究棟や発電施設からの光が燃え立つように輝いていた。それは絶望に飲み込まれようとする地球に残された、最後の希望の灯だった。


「全員、持ち場につけ!」

通信士の声がスピーカーから流れ、老若男女を問わず、国民すべてが息を殺すように動き出した。農家の老人は白衣を羽織り、かつての学校は仮設の管制室に変えられ、子どもたちすらケーブルを運んだ。

「これが……最後の戦いになるかもしれない」

誰かが呟き、その声は恐怖に震えていたが、同時に誇りの響きもあった。


軌道上に打ち上げられた小型衛星群は、星空の中に瞬く光の網を広げていた。

「リンク開始! エネルギー伝送を開始します!」

技術者の叫びが上がると、各地の残存する発電所が唸りをあげ、束ねられたエネルギーが天へと走った。


会議室に設けられた巨大モニターには、青白い光の筋が世界中を駆け抜け、次々と衛星に接続されていく様子が映し出されていた。まるで死にかけた心臓に強引に電流を流し込み、再び鼓動を取り戻させようとしているようだった。


「……お願いだ、失敗するな……!」

管制員の目は涙で滲んでいた。指は汗で震え、キーを押すたびに血が滲むほどだった。


やがてーー。


「展開開始!」

その瞬間、地球を覆うように透明な光の膜が広がり始めた。肉眼では見えないほどの精緻な波動。しかし、確かに空気は変わった。熱が押し戻され、空を覆っていた灼熱の赤がゆっくりと色を失っていく。


街中から、嗚咽混じりの歓声が上がった。

「風が……風が冷たい!」

「息が、できる……!」

抱き合う家族、地面に膝をつき天を仰ぐ老人、声をあげて泣く子ども。

その光景は、滅亡の星に奇跡が降り注ぐ瞬間だった。


だが同時に、他国の軍が構えていた。

バリア展開が確認された瞬間、

「ミサイル発射準備!」

オペレーターが叫んだ。


誰もが凍りついた。


だがーー。

次の瞬間、熱波に覆われていた都市に風が吹き抜け、ミサイル基地の兵士たち自身がその変化に息を呑んだ。


「……気温が……下がっている?」

彼らの頬に、何年も感じたことのない風が触れた。涙がこぼれるのも止められなかった。


そしてーー。

敵国の指揮官の声が、震えながら通信に流れた。

「……ありがとう、サチ」

それは最初、かすれた声だった。だが、次第に泣き声に変わっていった。嗚咽が混じり、言葉にならない声が交じり合った。


管制室では、誰もが声を失った。モニターに映るのは、かつて敵だった国の兵士たちが、涙を流しながら空を仰ぎ、武器を下ろす姿だった。


「私たちは……」

ある若い兵士が呟いた。

「人類を、救ったんだな……」


その言葉が伝播するように、国民たちの胸に広がっていった。

歓声、涙、抱擁。

その全てが混ざり合い、地球全体に新しい鼓動が生まれるのを誰もが感じていた。


ーーだが、戦いは終わってはいなかった。

熱を封じたバリアは安定していたが、エネルギー供給を止めればすぐに崩れる。地球が生き残るには、この状態を維持する新たな方法を見つけねばならなかった。


それでも、人類が初めて一つの意志でつながった瞬間を、サチの人々は忘れることはなかった。


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