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決断の時

外は灼熱の風が吹き荒れ、赤く濁った空からは灰のような砂が絶え間なく降っていた。窓越しに見る世界は、もはや生命が息づく星の姿ではなく、ゆっくりと死にゆく惑星の断末魔だった。


国家サチの研究室、その中でーー最後の会議が開かれていた。


研究室には、数十人の代表者たちが集まり、壁際には白衣姿の研究者や防衛担当の若者たちが立ち並んでいた。室内は重苦しい沈黙に包まれていたが、その沈黙は、誰もが恐れている言葉を吐き出す直前の緊張のようでもあった。


やがて、一人が声を上げる。

「このままバリアを拡張すれば……間違いなく攻撃を受ける。妨害電波だけではない。サイバー攻撃、物理的なミサイルすら飛んでくるだろう!」


別の者が机を叩いて叫ぶ。

「しかし、もう時間は残されていないんだ! 赤道直下の地域はすでに地獄と化している。人類全体が滅びるのを、黙って見ていろというのか!」


声が重なり合い、議場は瞬く間に罵声と悲鳴のような議論で満ちた。

「サチ一国が矢面に立てば、我々の子どもたちまで危険に晒されるんだぞ!」

「だけど、、バリアを広げなければ子どもたちに未来そのものがなくなる!」


若者の一人が、低く、しかし震える声で呟いた。

「俺は覚悟している。どうせこのまま死ぬなら、人類全体の盾になって死にたい」

その言葉に、一瞬だけざわめきが止まった。


沈黙を破ったのは、カイト夫妻だった。

彼らはゆっくりと立ち上がり、互いに視線を交わしてから、前へと進み出た。

「聞いてほしい」

カイトの声は揺れていなかった。だが、その奥には計り知れない決意と、張り裂けそうな痛みが同居していた。


「我々は、研究のためにここまで生き延びてきたのではない。我々は、人類を救うためにここにいる!」


妻のサチも続けた。

「攻撃を恐れていては何も始まらないわ! 彼らが妨害するのは、プライドのため。でも私たちが戦う理由は、未来のため! 子どもたちが笑える世界を、この手で残したいの!」


その言葉に、年老いた農夫が涙ながらに叫んだ。

「そうだ……! 俺はもう長くは生きられん。だが、孫には……どうか、青い空を見せてやりたいんだ!」


若い母親も声を振り絞る。

「戦うのが怖くないわけじゃない……! でも、黙って死ぬのはもっと怖い! どうせ死ぬなら、未来のために死にたい!」


次々と声が上がり、議場は震えるような熱を帯びていった。

恐怖に押し潰されそうだった空気が、少しずつ、だが確実に、希望と覚悟の炎に塗り替えられていった。


最後に、司会役の代表が深く息を吸い込み、言葉を発した。

「決定だ。国家サチは、全世界に向けてバリアを拡張する」


その瞬間、議場に重くのしかかっていた絶望がわずかにほどけ、人々の胸に一筋の光が差し込んだ。

それは希望であり、同時に死を覚悟する鐘の音でもあった。


カイト夫妻は手を取り合い、小さく頷き合った。

「受けて立とう。たとえ全世界を敵に回しても」

「我らは、人類のために立ち続ける」


研究室の外、燃え盛る赤い空に、彼らの決断が吸い込まれていった。

それはーー人類史最後の、そして最大の賭けだった。


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