もう一つ別の地球の話
地底の生き残りの続き
2060年ーー。
その星は、もはや“地球”と呼ぶにはあまりにも変わり果てていた。
少なくとも、この時間軸の地球は、、、崩壊していた。
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これはもう一つの別の地球の話。
かつての地球は緑と青の輝きに満ち、宇宙から見れば宝石のように美しい星だった。だが今、軌道上から見下ろすその姿は、まるで怒り狂った太陽の一部を切り取ったかのように、赤く膨張し、不気味な熱の波を放っていた。
その温度、地表で摂氏70度を超える。
人間がほんの数分でも立っていれば、皮膚は焼け、呼吸は肺を焼く灼熱の刃となる。
海はほぼ蒸発し、かつて白い帆船が行き交った大洋は、空気中に散り、燃えるような雲となって天を覆っている。その雲はもはや水の恵みを与えることなく、炎の色を映して地上を睨みつけるだけだ。
大陸の半分は、太陽光に焼き尽くされた黒いガラス質の大地へと変わり果てていた。足を踏み入れれば、地割れの奥から硫黄の臭いとともに熱風が吹き上がり、命あるものを拒絶する。
その荒廃した光景を前に、観測ステーションの司令室では、沈黙が続いていた。
「……これが、地球なのか……?」
老練な科学者が呟く声は、もはや誰に向けられたものでもない。隣に立つ若い技術員は、目を逸らそうとしたが、映像から逃げられなかった。
「先生……緑も、海も……もうどこにも……」
「そうだ。あの青と白は、もう二度と戻らんかもしれん」
そのやりとりを聞いた女性観測員が、拳を握りしめながら叫んだ。
「どうして……どうしてここまで放っておいたの! 誰も止められなかったの!?」
その声は司令室の壁に反響し、誰もが返す言葉を失った。過去の判断ミスも、政治の遅れも、科学の限界も、今さら言い訳にはならなかった。
それでも、この赤く膨張した地獄のような星には、まだ数少ない生き残りがいる。彼らは口々に言う。
「まだ終わっていない……終わらせてたまるか……」
だが、その声は熱風にかき消され、空へと溶けていった。